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ねじねじぽじてぶ ※

monogatary.comからの転載。 お題「ミスター・ポジティブ」 ***  仕事で嫌なことがあった。誤解だった。それは解けないまま、まるで公開処刑のような目に遭って、恥ずかしくて、今日もまた俺は俺を嫌いになっていく。  別に八つ当たりをするわけではないけれど、きっと、体内を駆け巡る負のエネルギーってやつを、もしかした、体外に解き放ちたかったのかもしれない。なんて、スピリチュアルか? 「お前はポジティブでいいな」  嫌味のつもりじゃなかった。ただ言葉を口にする。この物理的な作業も、放熱や放電みたいに必要だった。  リビングのソファーでテレビを観ていた頭が振り向いた。 「急にどした?なんかヤなコトでもあったん?」  彼の声も口振りも、陰気で浮きがちな俺とは正反対。きっと彼なら俺みたいなことにはならなかったのだろうけれど……比べてどうする。俺の出会した災難で、俺でなければ事前に回避できたことなのかもしれないのに。 「ないよ。ただ、なんとなく……」 「オマエも結構ポジティブだと思うけどな、オレは」  根暗。陰気。性格が暗い。怖い。昔から何度か言われた。家族や親戚からすらも。だからその言葉は意外だった。ポジティブかネガティブか、なんて褒め言葉ではないだろうし、彼がここで俺におべっかを言う必要はない。それか、励ましているつもりなのか。 「ウワァーって悩んでるけど、次の日にはけろってしてる。そこの切り替え方じゃね?オレだってオマエみたいにウワァーってなるコト、フツーにあるし」  彼は何でもないふうな顔をしている。 「あるのか?」 「ある、ある。でも家帰ればオマエいるしさ。簡単に悩み解決してくれちゃうじゃん。自覚ねぇんだ?」 「……ない」  俺の情けないネガティブ思考は本当に小さなことみたいだった。彼の大らかな笑みを見るとそう思う。忙しい日々のなかでアイドルの動画にハマっている同僚がいたけれど、こういうことなのかも知れなかった。ここが俺の帰るところで、彼が俺の憩う場所なのかもしれない。 「だいじょぶ。オマエはちゃんとポジティブだよ。今はちゃんと向き合ってネガティブになってるだけさ。牛丼作ったから食えよ。考えてもしょーがないって分かってんなら、気が紛れるまで考えてるのがいいよな、きっと」  彼はソファーから立ち上がってキッチンへ回っていった。 「オマエはネガティブなんじゃなくて真面目で反省しぃなの。ポジティブなことも、オレに言ってて、オレがそれに救われてるってコト、忘れんなよ」  優しさが、急に目に沁みた。 *** 2023.10.6

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