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あきなす日 ※
monogatary.comからの転載。
お題「秋茄子を食べさせたい人」
***
視線を感じた。俺にではなく、俺の食っているナスピザに。
ピザにナスが乗っているのではなくて、薄切りにしたナスにチーズとトースト用のピザソースがかかっている、簡単なおやつだ。そんなに凝ったものじゃない。
「食うか」
皿を差し出す。食わないだろうな。彼はナスが好きじゃない。
「う~ん」
「何か作ろうか」
卵はあるし、ネギもある。冷凍した白飯もある。シンプルな炒飯ならすぐに作れるけれど。
「んーん。いい」
彼の目に俺は弱かった。一度捉えられたら離せなくなってしまう。今はナスピザを見ているけれども。
「腹減ってるんだろう?」
「んー、別に。オマエがナス食ってるとこ見るの好きかも」
たまに彼は宇宙人みたいになる。
「なんだ……それは」
「オレがナス嫌いだからかな。でも美味しそうに食べてるところ見ると、なんかいいなって思う。なんでだろな?美味しそうだな、って思ってるうちが華……みたいな?」
確かに、人が食べているものは美味しそうに見えるという話はよく聞く。俺はあまり思わないけれど。
「そういうものか?」
「いうてナスあんま味ないもんな……ピザなら食えるかな……」
「一口食べて、ダメなら残せ。俺が食う」
そういう逃げ道があれば、彼も試してみるのだろう。味覚は変わるものだ。食わず嫌いというものもあれば、依然として不味く思うものもある。
「じゃ、じゃあ、1コちょぉだい」
食べるのは彼なのに、何故だか俺も緊張する。ナスはそもそもそこまで味の強いものではないから、チーズとピザソースの味で隠れそうなものだけれど、わずかに潜むナスのナスたるアイデンティティを感じ取ってしまったなら拒否感はあるのかもしれない。
彼はナスピザを齧った。溶けたチーズが伸びていく。素直な眉が少し歪む。
「いいぞ、残して」
けれどナスピザは平らげらていく。
「大丈夫か?」
水を差し出したが、彼はそれを拒否した。
「なんとなく分かったわ。下手に感情移入しないで、オマエが美味そうに食うトコ純粋に観れるからかもな、って思った」
俺は顔が熱くなってしまった。飯を食らう姿に安堵し、愛しい気持ちになるのは俺ばかりだと思っていた。けれどそれは漠然としていたもので、言語化されると、急に気恥ずかしい。
「秋茄子~、秋茄子~何度食っても飽きなす~」
即興の歌と謎の踊りを踊りながら彼はソファーに行って背を向けてしまった。
***
2023.10.10
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