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飽きなき秋 ※

monogatary.comからの転載。 お題「秋風が吹く夜」 *** 「泣いているのか」  寝床を抜け出した人影がベランダにいることに気付く。  飼っていたハムスターが死んだ。寿命だろう。これから寒くなる。室温管理はするつもりでいたけれど、死期に近付くと冷暖房ではどうにもならない自然の力というものがあるのかも知れない。寒くなる前に逝ったことを、俺はどこか呑気に考えていた。かわいい、ジャンガリアンだった。 「泣いてないよ」  冬の前の冷えた空気に全身を晒しながら、そう言う彼は特に強がっている様子でもなかった。 「星見てた」  彼の掴んでいるアルミの手摺りは皮膚が張り付いてしまうほど冷たく感じられた。 「風邪ひくぞ」  言ったそばから風が吹いた。季節が深まればこれからさらに荒れていくのだろう。冬は苦手だ。冬の何かが、俺を不安にさせて焦らせる。 「なんか不思議だな。不思議じゃね?あんな小さい体に命入ってたんだぜ。星になったんだな」  虹の橋を渡るだとか、空に昇っただとか、そういうありがちでメルヘンな言い回しを、実際に耳で聞くとは思わなかった。おそらく俺は呆気にとられていた。 「ここで見ると星小さいのにな、って話」  彼は拗ねたような声を出す。それで俺も納得しきれはしなかったが、ある程度理解した。俺にはない発想だった。 「秋風は、」 「うん?」 「秋風は、2人の関係が冷え切ることの比喩らしいが、お前に飽きることなんてないんだろうな」 「……ダジャレかよ?」  彼はへらへら笑っている。夜になったら寝て、朝になったら腹が減って起きる。そういうやつなのに、今日は。  どさくさに紛れて肩を抱き、室内に促せば素直についてくる。ほんのりとした温かな空気に身体が溶け込んでいく。まだ放置されたケージに長い役目を終えた冷暖房。静かなリビングが懐かしく思えて不穏な感じだった。何気ない、変わり映えしない生活が、結局のところ俺にとっての一番の幸せなのだ。毎日の繰り返しに飽きるくらいが。平穏で退屈で()き厭きするくらいが。 「へっくし」  少し大袈裟なくらいのくしゃみが響く。 「ココアでも飲むか。冷えてるだろう」 「へーき、へーき。起こしちゃって悪かったんな」  彼は戯けたように笑っている。寒かろう。抱き寄せて摩ってやると、くすぐったいのかまた小さく笑う。 「やっぱ泣いてい?」 「許可とるな、ばか」  俺の胸元に潜り込む背中を鼓動に合わせて叩く。子供にしてやるみたいに。  滑車の音がないのが、なんだか寂しいけれど。 *** 2023.11.20

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