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せせらぎ駅 ※
monogatary.comからの転載。
お題「嘘の駅で、待ち合わせ。」
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呑まれない才能というものがあると思う。男は共感能力が低いというが、女と比べればそういう傾向にあることは俺もそう思う。けれどケースバイケースだろう。
便利な言葉があったものだ。
恒常的に、ある意味で平等に、そういうわけにはいかなくて、結局は有無の話ではなく程度問題でしかない。人なんて。
「"裁判所前"で、待ち合わせな」
俺が銀の龍みたいな電車に乗り込むとき、彼は手を振りながら言った。向こうのホームにも電車が停まっている。
「分かった。"裁判所前"で」
それは目印の話ではなく、駅名だった。「ナントカ大学前」とか「ナントカ病院前」とか、バスみたいだけれど。
駅に人はいなかった。田舎か?それでも俺の乗る電車も、彼の乗る電車も龍みたいに長い。ホームも電車も貸切で、なのに違う電車に乗り込んで、これから待ち合わせに向かう。
俺の乗った電車が動き出して、まだ踏切には迫っていないのに、耳鳴りみたいなあの警報音が鳴っている。すぐに地下に入ったようで、車窓は真っ黒く塗り潰されていた。そしてまた、景色が開けた。
これは魔列車なのだと思う。俺は"裁判所前"に辿り着けるのだろう。けれど彼は……
手を振っていたあの姿が、おそらく最期だった。もう少し見ていても良かったのかも知れないが、惜しくなるだろう。そしてその資格は俺にはないのだ。
呑まれない才能というものを、彼は持ち合わせていなかった。持っている者のほうが少ないのかも知れない。悲しみにせよ、怒りにせよ。被害者にせよ、加害者にせよ。触れたらいずれかに偏る。感情を理屈によって中立に留めておくのは大変で、いつでも疲れる。
腐る俺に、彼は呑まれただけだった。俺より深く呑まれただけだ。近くなってしまったから。境界線を失ったから。彼はノリがいいから。
悪いのは俺で、俺は"裁判所前"に辿り着ける。ホームで別れたのがその答えだった。同じところには行けないのだ。
『来世とか信じてるタイプ?』
車窓の外には、フェンスを攀じ登る俺たちが見えた。
『閻魔様のトコで待ち合わせな。2人で会えばさ、きっと怖くないじゃん?』
指切りをした、数秒前の会話が甦る。
『じゃあ、閻魔様の裁判所前で――』
また地下トンネルに入っていく。揺れていた吊り革もシートも、四角い窓の反射も見えなくなって、警報音も消えてしまった。
やがて開けた視界には真っ赤な夕陽を浴びた建物が聳え立ち、耳元では嫌なせせらぎが聞こえるのだった。
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2024.12.4
前に描いた絵が元ネタ
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