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同葬生 ※

monogatary.comからの転載。 お題「ギャルと心霊」 ***  昔流行ったな、と思った。ギャル男というやつが。金髪で、日焼けサロンで肌を黒くし、じゃらじゃらと小うるさくアクセサリーを身につける。  違うとすれば、アライグマめいた化粧はしていないところだろうか。それから日焼けも、おそらく自然にそうなった。アクセサリーは控えめで、金髪も明るい茶髪といったところか。  それならどうして、彼に懐かしいあの文化を見たのだろう。  寒かろうに、彼はこの廃墟に薄着でいた。 「そこに立たないでくれるか」  俺が言うと、彼は崩れかけたコンクリートの塊に座り、あどけないつらをしていた。時代だろうか。昔と比べて、子供は賢くなっていく反面、大人は精神も幼く見えれば顔立ちも若い。 「なんで?危ない?」  初対面の人間にも馴れ馴れしく、怖がりもしない。殻に籠りがちで警戒心が強いというが、基本的に大人をナメていやしないか。最近の若者は。 「何しに来たんだ」 「フツーに肝試し。アンタは~?」  大して興味もなさそうに彼は板のような携帯電話を開いていた。キーホールダーを付けるところもない。 「ってか写真撮らね?インステやってる?チックタックとか」  俺は溜息を吐いた。 「肝試しなら、とっとと帰れ。ここには何もない」 「20年前くらいにここで事件あったんだって。霊が出るって噂じゃん。実はアンタがそうだったりして?」  最近の若者は、人との繋がりにデリケートで衝突を避けるというけれど、本当だろうか。彼が特殊なのか。 「親御さんが心配するぞ」  彼は板状の携帯電話の光で顔を暗闇に浮かばせている。 「あ~、うちの親、そういうんじゃないから」  馴れ馴れしい態度の裏側に、きっぱりと張られた一線が、割と浅いところにあるのも特徴だと思う。この若者もそうだ。 「それに、アンタだってオレとそんな歳変わんないでしょ」  遠くから足音が近付いてきている。嫌な予感がするのだった。 「本物に肝試しか」 「まぁな~。なんで?」  聞き覚えのある、金属の擦れる音がした。若者の表象(カタチ)は変わったけれど、20年経っても変わらない属性というものはある。 「何かしたのか。誰かの女を奪ったとか」  なんて、恋愛離れの今の時代にそんなわけもあるまい。 「は?なんだよ、オマエ。気持ち悪ぃ」  彼はコンクリートの塊から飛び降りた。 「そこは踏まないでくれ。俺が埋まってるんだ」  グレたような輩が続々とここへやって来る。俺の墓が荒らされるのだろう。最悪、同衾するのだろう。俺を殺した奴の血と。 *** 2023.12.4 「若者批判」は楽しいからね。

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