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第4話 好き

「泰誠」  郁巳の静かな声が、緊張しているのが、分かった。必然的にこちらも、緊張して、息をのむ。 「…絶対オレ、どっかで、思考がおかしくなってると思うんだ」 「……ん」 「…だから、絶対、お前に、こうだから、それは違うんだって、言ってほしいんだ。 んで、オレに、納得させて欲しい」 「……はい」  思わず、はい、なんて言ってしまう。   ついつい、泰誠も座り直し、正座してしまった。  客観的に、おかしな光景だと重う。  膝付き合わせて、真剣な顔で見つめ合ってる男二人。  端から見てたら、笑える。  でも、笑える雰囲気ではなかった。 「…あのな、泰誠」 「 …… 」  郁巳の言葉を遮らないよう、無言で頷く。一度唇を噛みしめた後、郁巳は、きっ、と睨むような瞳で、泰誠を見つめた。 「オレ今… オレが、お前の事、好きなんじゃないかって… 思ってる」 「――――……………」  黙ったまま、泰誠は自分の中で、郁巳の言葉を、数回繰り返す。  繰り返した後、泰誠から漏れたのは、たった一言。 「――――…………は?」  …またしても。 いや。中身を聞いてすら、意味が分からない。  というか、どういう意図の言葉なのか、分からない。  こんな必死の顔をして、何を言ってるんだろう。  戸惑っている泰誠に、郁巳は、困ったような顔をして、それから、続けた。 「オレ――――…恋愛の、好き、で、   お前のこと、好きなんじゃないかと、思ってる」  重ねて言われた言葉に。  またしても、ただ呆然とする。  「…おかしいよな?」  言われた言葉に、やっと、息が吸えた。  さっきからずっと、息が、出来ていなかった。 「…は…… って…… … えっ…と?」  自分は本当に大馬鹿なんじゃないかと思ってしまうような言葉しか、口から出てこない。  フザケてるのかと思ったが、郁巳の瞳は至って真剣。  笑い飛ばす事も、冗談かと聞き返す事も、出来なかった。 「…ほんとに… そういう結論が、出てるのか?」  喉に何かが張り付いたみたいで、声がちゃんと出てこない。  それでも、泰誠が何とかそう告げると。郁巳は、うん、と頷いた。 「…オレのことが、好き、て?」 「友達としてじゃないよ? 恋愛感情なんだ、どう考えても」 「………………………」 「…おかしいよな、オレ。勘違いだと思って、散々考えたんだけど…」  必死な郁巳の言葉。  うん、という訳にもいかず、逆に、おかしくない、と言うこともできず。  仕方なく。 「……………… 郁巳…」 「え?」 「……ごめん。混乱しすぎてて、今、答えられない」  …素直に、謝ってみた。 「…あ、そう、だよな。うん」  郁巳は妙に納得したように頷くと、正座を崩して、泰誠の前から退いた。  膝をついたまま移動して、泰誠の隣りに来ると、ソファに背中を預けた。  真隣りには居るが、とりあえず真正面から居なくなったおかげで、ようやくなんとか呼吸が出来るようになった…が。  ……今の脈拍、心拍数と血圧を測ってみたい…。  どんだけの、異常値が出るだろう…  そんな的外れな妙な考えしか、浮かばない。  本当に考えなきゃいけない事は、そんなことじゃないのに。 「…正座、やめれば?」  くす、と笑って、郁巳が静かに言った。  言われて、自分一人がまださっきの体勢のまま、正座で呆然としている事に気付き、ゆっくりと、それを解いた。

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