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第6話 なんだそれ。

「…てことで。 説得、して?」 「――――………………せっとく…?」 「だから、オレの事。 説得してくれよ」 「 ………ああ…」  ああああ。  そうだった。  説得しろって、言われてたんだった…。  郁巳に、言われて、思い出した。  泰誠はふ、と息を吐いた。  頭に何も浮かばない。  何も、言葉が出てこない。  こんな風に言われて、説得って――――…  いったいどうやって?  目の前の郁巳は、早くとでも言いたげな表情で、まっすぐに泰誠を見ている。  なんでこんな無茶言うかな…。  ほんとに勘弁しろよ…。  思考回路が働いてくれない。 「んー……今は無理そう?」  郁巳がそう聞いてきたので、泰誠は、何も言わず、頷いた。  すると。 「ん、分かった!」  そう言って、郁巳がすっくと立ち上がった。 「は…?」  呆然と見上げると、郁巳は鮮やかな。本当に、鮮やかすぎる位の笑顔で、泰誠に笑いかけた。 「すぐでなくてもいいぜ、お前、目ぇパチクリしてるし。今は無理だよな?」 「――――…ぱちくり…って…」 「今日はもうやめよっか」 「――――…」  何と答えていいか分からない。すると。 「オレ、風呂、入ってくる」  あまりに普通の口調で郁巳はそう言うと、泰誠の返事も聞かずに、リビングから出ていった。自分の部屋に一旦入り、多分着替えを持ってから、バスルームへ消えた音が聞こえた。  シャワーの音が聞こえ始めてから。  「……………はああああ…?」  泰誠は、そのまま脱力して、うしろのソファにぐったりと倒れ込んだ。  そのまま動けない。  何だ、それ。  好きだって、何だ、それ。  恋愛感情って、なんだ。  オレに襲いかかりたくはないけど、  ……襲われてもいいかもって、 何だよ、それ。  オレが、襲うのか、郁巳を。  ――――…ありえない。  いや、馬鹿か。考えるな、想像すンな!  無理矢理その妙な想像を振り払い、冷静を取り戻そうと、息を整える。  ――――………………  本気で言ってるのか?  風呂から出てきたら、冗談だ、とか言うんじゃないか?  お前がどんな反応するか試したかったんだ、とか、平気で言ってくれるかも…うん。  そうであって欲しいと… 思うんだけど………………… 「――――……」  あんな口調で、あんな風に言う言葉が、冗談であるはずが、無い。  ……… 郁巳が、こんなタチの悪い冗談、言う訳が、ない。

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