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第9話 無理難題

「………~~~…………」  心臓が痛い。  ――――…ドキドキしすぎて、呼吸するだけで胸が痛い、ような気がする。  郁巳からの………無理難題。  本当に、もうどうしていいのやら。  頭がくらくらする状態のままベッドに潜り込み。  けれど、結局眠れずに朝を迎えてしまった。  ずっと考えていたのに、ちっとも思考は前に進んでいない。  時計を見て、ため息をつく。  もう9時か…  いつもの休日なら、もうとっくに起きている時間。 「…起きるか………」  呟いて。でも起きあがれずに、また枕に顔を埋めていた時。こんこん、とノックの音。 「泰誠…?」  郁巳がドアを開けて静かに言いながら、顔を覗かせた。 「……はよ、郁巳」 「あ、起きてた。 ん、おはよ」  にっこり笑う郁巳。   昨日も思ったけれど。 何だか、ものすごく素直な笑顔。 「起きてくるの遅いから、見に来た」  言いながら、郁巳は部屋に入って来て、オレのベッドに腰掛ける。  …… 何でベッドに座るんだ。 と。  ――――…今までならまったく気にもならなかった事にまで反応してしまう。 「……もしかして、寝れてねえ?」 「…んな事、ない、んだけど……」  完全に一睡もしてない、なんて言いたく無くて、そう答える。 すると、郁巳はくす、と笑った。 「ごめんな、昨日。 変な事頼んで」 「――――… な、郁巳」 「ん?」 「昨日言ってたのって… 本気なのか?」  実は冗談だった、とか。 …あってくれると、嬉しいのだが。  思いながら聞くと、郁巳は一瞬きょとんとして。それから、大きく頷いた。 「うん。昨日言ったのは、全部本気」 「――――…」 「もう一回言った方がいい? なら言うけど」 「…いや、大丈夫」  …………何だかもう、どうしたらいいのか、全然分からない。  朝からまた告白なんかされたら、その後どう過ごしたらいいのか、会話すら思いつかない。 「…ん。な、とりあえずさ、泰誠?」 「…何?」  ちょっと警戒してるオレに。郁巳は、にこ、と笑って。 「オレ、腹減った」  と一言。 「は? …あ、ああ、朝飯作ろうか。ん、ちょっと待ってな」  家事はほとんどが手分けしてやってるけれど、料理だけは、得意な泰誠がつくることが多い。郁巳は横で、コーヒーを入れたり、皿を出したり、泰誠の指示でちょこちょこ動いてる。  ――――…予想外の言葉だったので、一瞬固まってしまったけれど、すぐに反応して、ベッドから出ると。 「うん」  にっこりと。  また、笑う。  何で昨日から、そんな風に、無邪気にニコニコ笑うんだか、あまり見慣れてないだけに、かなり戸惑う。  ――――…週末の二日間はそのまま、それ以上は何もその事について話すこともなく。  表面上は、いつも通り、過ごした。  心の中は。  ――――… とても いつも通りなんて、言える状況では、無かったけれど……。

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