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第11話 恋人同士

 翌日。 学校も終わり、夕食も終えてから。 泰誠は、いよいよ覚悟を決めた。土日はあまりに驚いててその事に触れられず。昨日は、あまりに悶々として、何も話す事も出来なかった。  説得する、と約束したからには、いい加減、少しはチャレンジしないとまずいだろう と。  郁巳は特に急かしてくる様子もないのだが、勝手に、ものすごいプレッシャーを感じていた。  …いくか…。  ちょっとした覚悟を決めて。「説得」とやらをしてみようと、郁巳に話しかける。 「郁巳、ここ、座って?」 「ん? あ、うん」  雰囲気で気付いたのか、読んでいた本を置いてとことことやってきて、目の前に座る郁巳。  ソファに座った泰誠を、すぐ下のカーペットに正座した状態で、まっすぐに見上げてくる。  ………何で、こんな、めちゃくちゃ素直なんだ……  お前こんな奴だっけ?  正座なんかしてるから、余計にかわい…………いやいや、ちがうだろうが。  ああ、もう、ほんとに。 「…郁巳、正座でなくていいよ」 「え? あ… ああ。つい」  緊張して、なんて笑う郁巳に、それはこっちの台詞だと、言い返したくなってしまう。  ――――…郁巳相手に、こんなに緊張する日が来るなんて。考えてもみなかった。 「……郁巳、今もオレの事好きだって思ってる?」 「え」  郁巳は、きょとんとして。それから。はっきりと。 「…当たり前じゃん。 こないだ言ったばっかりで、そんな簡単にかわんねえよ。 だから説得、頼んだんだし」  そう、答えて、にっこり笑う。 「――――…郁巳、好きな女は…居ないのか?」 「うん。居ねえよ?」 「…彼女欲しいとか、思わないの?」 「んー……少なくとも今は思わねえ」 「………そしたら、オレに、どうしてほしいんだ?」 「え? …ああ …――――…」  んーー…としばらく考えた末。郁巳は、わかんねえ、と言って苦笑いを浮かべている。 「――――…オレと、恋人同士になりたいとか、思う?」 「――――………」  返事がない。 「…郁巳?」 「……思ってるの、だって、変だろ?」 「――――…思うってこと?」 「……だから、止めて欲しいって言ってんじゃんか」  ……まあ、言ってる事は、分からなくは、ない。  好きだから恋人同士になりたい。だけど男同士だし、それをおかしいと思うから、止めてほしい。  ………… 分からなくは、ない。   分からないのは、自分の感情、の方で。  恋人同士、か――――…  自分で出した言葉なのに、何だか、急に居心地が悪くなってしまう。 「…恋人同士て… …男同士だろ?」 「うん」 「…オレ達が、ほんとに付き合ったら、親、泣くかもよ?」  ――――………つーか。  オレは一体何を言ってるんだ…  自分で激しくそう思うが、郁巳はその言葉を聞いて、ふ、と笑った。 「――――…お前んトコは泣くかもな」 「…ん? …郁巳のトコは?」 「…結局オレには甘いから。 多分、許してくれちまうと思う」  その言葉に、数回会った郁巳の両親を思い浮かべて。 ぷ、と笑ってしまった。 「あ、なんか、分かるような気がする…」 「だろ?」 「それ言ったらうちの親だってなんだかんだ言っても、甘いしなあ……」 「んでも、うちの親には負けるだろ」 「いや、うちも相当だから…」  クスクスおかしそうに笑って、郁巳がオレを見上げる。 ぷ、と笑い合ってから、はた、と気付いた。  …… 話がおかしな方向へ…。  親泣かせたくないだろ、ここで踏みとどまろうとか、そんな話に持っていこうと思ったような… 違ったか?  こんなんじゃ、説得にも何にもなってない。  お気楽なお互いの親が、今は恨めしい。

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