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第14話 笑顔

 それから。何日も過ぎて。いつの間にやら、明日はもう、郁巳の誕生日。  あれ以降は、全く、そんな話を出来ずにいた。普通に出かけて、普通に遊んで。普通に家でも過ごして。  ――――…表面上は、完全に、普通に。  けれど。  その間、ずっと、郁巳はまっすぐに泰誠を見つめる。そして、ふわふわと、楽しそうに、笑う。  それ以前の、視線を逸らしたり、時にはむっ、と睨んだり。  あれが全部、想いを認めたくなかったからなのかと思うと。  ――――…前、こんなに素直に笑ってたっけ?  思わず考え込んでしまう程に、あれ以降の郁巳は。  …可愛くて。  時が経てば経つほど――――…  郁巳の言った言葉が、自分の想いのようになっていく。  彼女が出来たら嫌だと思うのも。  郁巳が、誰かとキスしたり。そういう事をするのに、嫉妬してしまう気がするのも。  ずっと、郁巳の、一番で、居たいと思ってしまうのも――――…  全部が、恋愛感情での「好き」故な気が、してしまって。 「――――………」  元々、誰よりも好きだった。  一緒に暮らしたいから、誘った。  それくらい、郁巳という 人間が、好きだった。  その郁巳が、オレを好きだって言って――――…  毎日毎日、まっすぐに見つめられて。  無邪気に笑顔、見せられて。  …… 可愛いって 思わない 訳が、ない。  ぐったりして。  ソファに沈み込む。  ああ、何かオレ――――…最近このソファに、よく沈んでるよなぁ……  ……なっさけな………  余計落ち込みそうになった、その瞬間。 「…っっわ…!!!」  首筋に触れた、ものすごく冷たいものに、そんな声を上げて飛び上がって振り仰ぐと。目をまん丸くした郁巳が立っていた。 「びっくりした…」 「…っそれオレの台詞だろ」  目を大きくさせて、苦笑いしている郁巳に、とりあえず言い返しておく。  心臓、縮まった、ほんとに……  ブツブツと言うと、郁巳はおかしそうに笑って。 「ごめんって。 飲むかなーって思って」  郁巳の手には、2本の炭酸水のペットボトル。 「もらう」 「うん。どーぞ」  1本を受け取って、ソファにちゃんと座り直した。  手に残った方を開けながら、郁巳は泰誠の横に、すとん、と座った。 「だってさオレ風呂出てきて、お前のすぐ近く歩きながら、飲むか聞いてんのに、全然反応ねえんだもん」  クスクス笑って、泰誠を見つめてくる。 「だからちょっと触ってみただけ。 怒ってんの?」 「…怒ってないけど…」  言うと、郁巳はふ、と笑って、ペットボトルに口をつける。

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