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第15話 無理

 以前だったら、何も意識しなかった、風呂上がりの、郁巳。  ――――…あきらかに、自分はおかしくて。  そもそも、視線を外して、見ないようにしている事自体、絶対に、おかしい。  自分で、よく、分かっていた。 「――――…な、泰誠」 「…ん… 何?」  郁巳はペットボトルを目の前のテーブルに置いて、まっすぐ泰誠に向き直った。 「………手。触ってもい?」 「――――……え?」 「…実際触ったら、どんなかなぁて思ってて。 …嫌?」 「…触るって……」  よく分からないけれど、嫌と言える雰囲気でもなければ、別に、嫌だとも思わず。  泰誠もペットボトルを置いて、 ん、と右手を差し出してみると。  郁巳は、ふ、と笑って。  そうっと、まるで握手するような、手をつなぐかのような、感じで。 ゆっくりと、触れてきた。  「実際触ってみたら」って――――…  …触ることを、頭ん中で考えてるって、こと、だよな…。  何とも言えない、何も言葉も出せない雰囲気に、ただ触れられている自分の手を凝視している泰誠に。 「――――…… ごめんな。 オレ、困らせてる、よな」  郁巳が不意にそんな言葉を口にした。 「男に好きなんて言われても――――… 困るよな…」 「――――…郁巳…?」  ――――… 確かに、困ってはいるけれど、それは、多分、お前の言ってるような意味じゃ、ない。  お前が、オレを好きって言ってることに困ってる訳じゃなくて。  ――――…   説得なんか、出来なくて。  お前がオレを好きだと判断してることは。 全部オレも同じように感じている事ばかりで――――…  オレはそれを、友達としての気持ちだと思っていたのに、お前が、「恋愛感情」だなんて言うから。  ――――…説得するよりも、こっちの考えが覆されてしまうような…  だけど、お前は、オレを好きでいるのは困ると言って、辛そうだから。  絶対、説得しなきゃ、いけないと思うし――――…  ――――…けど……  頼まれてから、ここまで。  ずっと、考えていたけれど。   ――――…もう、無理なのではないかと、諦めかけていて。  とりあえず、聞いてみることに、した。 「郁巳――――… 説得すんの、無理って言ったら…どうする?」 「…え」  郁巳は心底困った顔で。  ……その顔に、どうしよう、と言わんばかりの困惑が浮かんで。  それにまた、泰誠は、傷ついた。

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