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第16話 やめる

 ――――… そんなに、オレの事好きで居るの、嫌なのか…  そうだよな、勘違いにしたいんだもんな…。 「……それって…」  郁巳は、触れていた泰誠の指をそっと離した。ぎゅ、と手を握りしめて。そのまま俯いた。 「――――……もう、こういう話したくねえって、事?」  そんなに、オレの事好きでいるのが嫌なんだったら…   別に説得しなくたって、お前、自分で気持ちの整理位出来るだろ。  そんな風に思って黙っていると。顔を上げて、郁巳はまた泰誠を見つめてくる。 「でもオレ…… してくんねえと…… 困るんだけど」  また口にした、「困る」。  泰誠は、何だか、どうにも辛くなってきて。 「郁巳は困るって言うけど――――… オレ、悪いんだけど… …多分、出来ない…」 「――――……そ、か… 分かった…」  握っていた手をふ、と解いて。  は、と息を付く郁巳。 「……… あのさ、泰誠」 「…ん?」 「………これ以上…困らせ続けるの… 嫌だしさ」 「…?」  郁巳はきゅ、と唇を噛みしめて。それから。 「……一緒に暮らすの、やめようぜ。 オレ、ここ、出てく」 「――――――――……は?」  予想外の言葉に、驚いて、しばし固まってしまった。  …なんで、そんなことになるんだ。絶対冗談じゃない。  言葉にする前に、泰誠の考えてる事は全部顔に出ていたらしい。 郁巳は、その理由を、話し始めた。 「…少し離れて、自分で落ち着いて考えて頭冷ましたいし、その方が良いと、思うから。 …泰誠が説得してくれても駄目だったら、そうしようって、決めてたんだ」 「――――…………何、言って……」 「だって、迷惑かけたくねえし。… あ、もちろん、ここ一人だと広すぎるから部屋探すって言うなら、それにかかる金とかははら」 「んな事言ってない」 「――――…泰誠…?」  何言ってんだ、郁巳。  ここ、でてく?   ――――…そんなの、絶対… 「絶対嫌だ。その提案は、却下」 「え… だけど」 「絶対、却下だから」 「――――…だって… このままじゃ…」  俯いてしまう、郁巳に、苛つく。 「このままだと何なんだよ」 「――――……好きって思い続けるのも、結構、キツイし…だから頭、冷やしてえし」 「…冷やしたらもう、好きじゃなくなるのかよ」 「――――……」  多分相当苛ついた声になってる泰誠の言葉に、郁巳は顔を上げて、首を傾げている。 「…何でそんな、怒ってんの?」 「――――…怒ってる訳じゃない」 「怒ってるじゃんか…  何に対して怒ってんのか、よくわかんねえんだけど…?」  どうしたらいいんだろうといった表情で、泰誠を見ている郁巳を見ていたら。  何だか、本当に、腹が立って来て。 「…何で頭、冷やさないといけないんだよ」 「え?…だって、そんなの、困る、し」 「オレの事好きなままだと、何がそんなに困る?」 「――――…?… 泰誠??」  何が言いたいんだか、分からないらしい。  …それも、しょうがない。  そんなの、言ってる自分が一番。  何を言いたいのか、何を言うべきなのか分かっていない。  郁巳が分かる訳がない。  思いつくままを、言葉にしてしまう事しか出来なかった。 「…そのままだったら ……どうしても、だめなのか?」 「――――…え…?」 「オレを好きなままだったら、何がそんなに、いけないんだよ?」 「 ――――………」  遂に疑問詞まで失って、無言で泰誠を不思議そうに見つめている郁巳。 「……オレが何で説得出来ないって… …お前が、そのまま居てくれた方がいいと…思って…」 「――――………」  その言葉を聞いた後、しばらく、ぼーーーっと固まっていた郁巳は。  不意に、赤くなった。 「…え……何言って…」  片手を握りしめて、口元に押し当てている郁巳に、かなり躊躇う。  そんな姿を見ていると、自分がしたい事は、  もう明らかに、ただ1つなのだけれど。  それをしてしまっていいのか――――… 「……どういう…」  戸惑いまくった郁巳の声と、表情に。  突然、覚悟が決まった。  郁巳のその手をぐ、と掴んで。  そのまま、自分の胸の中に、引き寄せた。  そのまま、ぎゅ、と抱き締める。 「………っ? ……たい、せい?」  ――――…抱き締めてしまったけれど。  泰誠の中に、 後悔は、生まれなくて。  だから、余計に、聞きたくなった。 「…これ、困るのかよ?」 「――――…え?」 「…説得やめて――――… こうなったら… お前は、困るのか…?」 「――――…」  泰誠の言葉に、郁巳は、ただ泰誠を見上げて。  ただ、瞬きを繰り返すだけ。

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