17 / 18

第17話 予感

「どうしても、お前の気持ち、変えなくちゃいけないのかよ…?」 「――――……だって… オレが…ずっとそのままだったら…」 「…だったら、何だよ…」 「――――…お前が困る、と思って……」 「――――――――……ん??」  今……なんか変な事言った、こいつ。  ………オレが、… 困る?? 「ちょっと、待て。 ……誰が困るんだ??」  肩を掴んで少し離して。郁巳の顔を覗き込むと。 「……泰誠」 「…おれ??」  泰誠は眉を顰めてしまう。 「…オレが? …郁巳、困る困るって、オレの事言ってたのか?」 「だってさ…」 「――――…」 「――――…オレがお前の事、ずっとこのまま好きだったら、   …泰誠、困るだろ?」  腕の中で、言われている台詞に、泰誠は更に首を傾げた。 「何か、思ってたのと違うな。……オレの事を好きだと、郁巳が困るんじゃないのか?」 「……そりゃ、お前に困られてたら、オレも困るし…」 「……オレが、困らないって言ったら?」 「――――……」  泰誠の質問に、郁巳はしばらく、首を傾げて。  ふと、パチパチ瞬きをして、視線をさまよわせた。  それから、ゆっくりまた、泰誠を、見上げた。 「――――…オレが、お前の事好きでも、お前、困らないのか?」 「ん。 困らない」 「え。 …じゃあ…オレも、困らねえけど…でも…やっぱり困るだろ?」 「困らないって言ってるだろ。 むしろ――――…オレを好きでいると困るって言われてたのが、ずっと嫌で……」 「………?」 「郁巳がオレを好きなことが嫌で困るんだって思うと… 説得しなきゃいけないのかって思ってたんだけど…」 「――――…」  泰誠の言葉を、理解しようと、一生懸命な眼差し。  それを見ていたら、もう、言いたいことは、一つな気がして。 「…オレ、お前にずっとオレの事、好きで居てほしい」  そう言ったら。  黙って、ただ泰誠をじっと見つめていた郁巳は。  しばらくしてやっと話の内容を理解したらしく。  嬉しそうに、ぱっと、笑った。 「…じゃ、オレが説得する!」 「え?」 「お前がオレの事、好きって思うように。 オレ、お前の事説得する」  腕の中で、おっきな瞳で。 にっこり笑って。  郁巳は、そんな事を言った。  …説得……??  ――――… …… 必要、ないんだけど、そんなもの… 「郁巳、オレは――――…」 「オレ、頑張るしっ」 「――――……」  言うと、郁巳は、ぎゅう、と泰誠の二の腕を掴んで、妙に楽しそうだった。 「良いんだよな、オレが、説得して。 お前、困らねぇんだよな?」  自分の腕の中で、嬉しそうに笑うその顔だけで、もう十分で。  何でこんなに愛おしいものを愛おしいと思わずに、今まで側に居られたのかが 逆に不思議な程で。 「……郁巳――――…」 「え? ――――……」  名を呼ばれてまっすぐに振り仰いでくる郁巳に耐えきれず。  泰誠は。  一瞬だけ。  唇を、触れあわせた。 「………え…?……あ――――……」  ぼぼぼっ。  火がついたみたいに真っ赤になって、目を大きく見開いている郁巳に。  思わず、ふ、と笑ってしまう。  ――――… めちゃくちゃ。 可愛いんだけど…。  …マジで、どうしよう。 「…っっっ…何すんだよっ、すんならするって、言えよ!」 「…え?」  急にすごい怒った顔で言われて、予想外過ぎて、茫然。 「初めてお前とキスしたのに、よく分かんなかっただろっっ!」 「――――…あぁ…」  そんな事で本気で怒ってるっぽいのが、また愛おしくて。 「…そしたら、もう一回、やり直す?」 「ん! やり直して!」  そう言ったはいいが。  まっすぐな瞳が、ものすごく、至近距離から、じいっと泰誠を見ていて。 「…瞳ぇ… つむらないのか?」 「やだ。 見てる」 「……… やりにくいんだけど…」 「…だって、お前のこと、見てたいんだもん」  多分本当は死ぬほど恥ずかしいんだろうな…  何だかものすごく、必死な顔をしているし。  …ドキドキしてるのは、こっちも同じだけど。  ――――…なんか、心臓、口から出てきそう。 「……… やっぱ、つむる …」  至近距離から見つめ合う事に耐えられなくなったのか、郁巳は、ゆっくりゆっくり瞳を伏せる。  うまく閉じていられないのか、睫毛が震える。  ――――…だめだ。  何でこないに可愛いんだ……。  ゆっくりゆっくりと唇を重ねさせて。  しばらくして、離すと。  郁巳が、ぎゅ、とオレに抱き付いてきた。 「………泰誠の事――――… ほんとに、好きで、良いのか?」 「…何今更…  さっきから言ってんだろ…」 「…だって、なんか、信じられねぇし」  愛しくてたまらなくなって。  ――――…ぽんぽん、とその背中をあやすように叩いた。    「あ、そうだ。 なあ…郁巳、プレゼント…」  泰誠はふと思い出して、そう言うと。 「――――…いらねー。だって、今すっげぇ嬉しいもん」  そんな台詞に、苦笑い。 「でもなんか言えよ。 オレは、やっぱり祝いたいし…」 「……じゃ、明日、デートしようぜ」 「デート?」 「泰誠とデートしながら、欲しいもの探す」  そんな風に、言って、嬉しそうに笑う郁巳が。 「――――…ん。デート、しような、郁巳」 「ん」  またまたものすごく嬉しそうに、微笑むのが。  最強に。  可愛すぎて   ………… それこそ、困る。 「なあなあ、泰誠?」 「ん?」 「お前がオレの事好きなのって、ちょっとは恋愛感情あるって思ってて、いいのか?」 「…じゃなかったら、キスなんかしないだろ」 「あ、そっか」 「何を今更…」 「んじゃ、オレが、説得し続ければ、オチる?」 「――――…」  …………オチるも何も、もうとっくに、オトされてる気がするのだけれど。  明らかに、完全にコレはもう――――…  友情なんかじゃなくて。  間違いなく恋愛感情だと、思ってるのに。 「お前がオレの事、もっと好きって思ってくれるように、オレ、頑張る!」  そう言って、何だかワクワクしてる様子の郁巳に、泰誠は思わず、ぷ、と笑ってしまった。 「何がおかしんだよっ」 「何か楽しそうだから。…… じゃあ、郁巳がオレを説得してくれるの?」  言うと。郁巳は、何やら途端に瞳をキラキラさせて。 「任せといて」  そう笑った。 「――――…ん。 任せる」 「うん」  嬉しそうに笑んで。  郁巳は、大きく頷いた。  説得、ね…。  してもらおうか。  どんな風にしてくれるんだか。  ――――… すっげー、楽しみ。  オレがもうとっくにオチてて… オトす説得なんて必要ない、なんて事は。  …郁巳には、少しの間――――… 黙っとこ。  郁巳をもう一度引き寄せて、軽く抱き締めると。   肩にぽふ、と顔をもたげて。 そのままじっと、動かない。 「…郁巳、明日どこいきたい?」 「――――…んー… 泰誠は…?」 「…お前の好きなトコでいいよ」 「好きなとこ? ――――…んーーーじゃあ……」  色々考えながら、喋る郁巳の髪の毛が、ふわ、と頬に触れて。  柔らかい感覚に、胸の中が、暖かくなる。  二人で暮らし始めて、初めて迎える郁巳の誕生日は。   何だかひどく――――…幸せな予感が、した。 ++++++++ romantic feeling = 恋愛感情 でした。 とりあえずここで完結にします(*'ω'*) 楽しんで頂けてたら、嬉しいです。 その内、郁巳がどーやって説得してるかとか。 いつ泰誠がオチてるってばらすかとか。 書いてみたい気もするので、ひょっこり小話続くかもしれません(^^) またその時に◇◇ (悠里(*'ω'*))

ともだちにシェアしよう!