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影
「うわ、デカっ」
しばらく歩いたところで、周りの住宅よりも一際大きく、これぞ高級、という佇まいの一軒家が現れた。思わず立ち止まる。
庭を囲むようにうっそうと木々が生えているので、門の入口からは庭の中は見えなかった。けれども、水の音が微かにするところを見ると、プールか噴水か、高級宅にはお決まりのモノがあるに違いない。そんな森のような庭の向こう側に、モダンなリゾートホテルにしか思えない家の上部だけが見えた。
一体どんな人がこういう家に住むのだろう?と考えながら、再び歩き出そうとしたその時。その家の庭から誰かがプールに飛び込むような音が聞こえた。
さっきから歩いても歩いても誰とも出くわさないし、自力では限界かもしれないなと思い始めたところだった。
もしかしたら、道を聞けるかもしれない。
そう思った瑛斗は、大きな門の正面に戻って呼び鈴を探した。
ん?
ふと見ると、門の隣に大人が1人通れるぐらいの扉が設置されている。そこが10センチほど開いていた。使用人用かなにかの扉だろうか?試しに押してみると、あっさりと全開した。
不用心だな。こんな変なやつが道を聞きに侵入してくるかもしんないのに。
お邪魔しまーす、と小さく呟いて、瑛斗は中に入った。水音のしたほうへとなんとなく忍び足で向かう。木々の間にある石版の道を抜け、視界が開けたなと思った次の瞬間、大理石でできた大きなプールが目の前に現れた。高級ホテルにありそうな立派なものだった。
その中に人影を見つけて、声をかけようと1歩踏み出した。しかし、そこで瑛斗の足は止まった。
あれ……人だよな?
すっかり太陽も沈み、辺りを夕闇が包む中。プールサイドの灯りが2つほど点灯しているだけでプールの中は薄暗くてよく見えなかった。
その水の中にふわりと仰向けに横たわる影があった。静かに浮かぶその影は確かに人の形をしていたが、醸し出す雰囲気が別の生き物のように感じられた。この世のモノではないなにか。
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