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不意打ちキス ★
なんだろう、こいつ。なんか……常識が通用しない匂いがする……。
瑛斗の脳内で危険信号が点滅する。とっととここを出たほうがいい。こんな異国の地で、例え日本人であろうとも、変なやつに関わるとろくなことがない。
瑛斗は早いところ門へ引き返そうと、さりげなく1歩ずつ後ずさりした。
「あの、ほんとに、勝手に入ってすみませんでした。俺、他で道聞くんで……」
そう言いながら振り返り、急いでその場を去ろうとしたのだが。
「わっ……」
振り返った瞬間に、素早く右手首を掴まれて引き戻される。
「ちょ、なんだよ!」
「……道、聞きたいんだろ? どこ行きたいの?」
そう言われて、手首を掴まれたまま瑛斗は堕天使を見上げた。
なんだ、一応は親切に教えてくれるつもりだったのか……。
「あの……ビーチなんだけど……」
「……お前、ほんとに迷子になったの?」
「え?」
「この家出て、道渡って、その道真っ直ぐ行ったら着く。3分ぐらいで」
「は……? ほんとに……?」
自分が山本と別れたビーチからほとんど離れず徘徊していたなんて全く気づかなかった。
自分では冒険家になったような気分で、颯爽と色んな道を突き進んでいたつもりだったが、きっと小さい地域をグルグルと回っていただけだったのだろう。もしくは、1周回って知らぬ間に出発点近くに戻っていたのか。
目の前の男の無礼さについつい強気に対応してしまったけれど、自分の方向音痴バレバレの失態に顔から火が出そうになる。
「……ご迷惑おかけしてすみませんでした。ありがとうございました」
恥ずかしさに顔を赤くしながら、お辞儀をしつつ礼を言った。なぜか右手はまだ掴まれたままだったが。
「…………」
あれ?
相手が無言のまま反応が全くないので、伺うように体を起こす。と、その瞬間、またもや強く右手を引っ張られ、瑛斗はそのまま目の前の裸の男のほうへ前のめりに近づいた。
「ちょ……んっ……」
は??
一瞬、なにが起きたかわからなかった。見開いた目のすぐ前に、堕天使の長いまつ毛が見える。そこでキスをされていることに気づいた。あまりの予想外の出来事に、瑛斗は抵抗もできずに、ただされるがまま立ち尽くしていた。
時間にしたら、1秒、2秒だったのかもしれない。しかし、瑛斗には永久にも感じられる長さだった。この堕天使男の唇からもう逃げられないのではないかと錯覚を起こすくらい。
唇が離れる直前に、少しだけ強く、男のふっくらとした唇で上唇を挟まれた。そのままゆっくりと離れていく。
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