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堕天使、再び
翌日も見事な晴天だった。テレビの天気予報では、局地的にスコールのような雨が降るかもしれないと言っているように聞こえたが、なんせ英語なので完全に理解できているかはわからなかった。
山本とホテルのビュッフェで朝食を取ったあと、部屋に戻り、出かける準備をする。
「瑛ちゃんは、ツアーに参加するんだよね?」
「うん。昨日の朝に申し込んでおいた。大勢でやったほうが楽しいだろうし」
「そうだね。あ、瑛ちゃん、今度は携帯忘れたらダメだからね」
「大丈夫だって。ちゃんと鞄にあるの確認したし」
支度が整ったので、ロビーへと一緒に向かい、そこで山本と別れる。
「そしたら、また夜にね」
「うん。気を付けてな」
手を振りながら去っていく山本を見送って、自分も出発しようかと、下ろしていたバックパックを手にして出入り口に向かおうとした時。
「みーつけた」
どこかで聞き覚えのある声が後ろからした。この声は……。いや、そんなことはあり得ない。でも、まさか……とおそるおそる振り返る。
「……お前……」
そのまさかだった。
堕天使。
昨晩、あの高級住宅地で出会った、全裸の男。今日はちゃんと服を着ているが、顔はあの時の印象のまま。その綺麗な顔に不敵な笑みを浮かべて立っていた。
「なんでここにいんの??」
「会いにきた」
「どうやってここがわかったんだよ?」
「そんなの、ちょっと調べたらすぐわかるって。中嶋瑛斗くん」
「……名前も調べたのか」
「名前知らないと不便だろ?」
「……なんの用?」
「だから。会いにきた」
「なんで?」
「今日、デートしよ。中嶋瑛斗くん」
「……は?」
まるでなにか聞き慣れない異国の言葉を耳にしたようだった。すぐにその意味が理解できず、瑛斗は眉を潜めた。
「なに言ってんの?」
「だから、デートしよ。なに、耳あんま聞こえねーの? 中嶋瑛斗くん」
「いや、そういうことじゃなくて、お前の言ってることがおかしいからだろ」
「おかしいこと言った? 俺」
「おかしいって。大体、男同士なのに。なんで、デートになんの?」
「男同士だってデートするだろ? ゲイだっているし」
「いや、だけど、俺はゲイじゃないし、お前と付き合ってないし」
「……嫌なの? 俺とデートすんの」
「嫌とかじゃなくて……俺、予定あるから」
「ああ、あれ、キャンセルしといた」
「は??」
「もう行かないだろ。俺とデートするから」
「なに勝手にキャンセルしてんだよ!!」
「中嶋瑛斗くん、声が大きい。さっきからすげぇ見られてる」
はっとして周りを見る。すると、迷惑そうな顔や好奇心溢れる顔が、自分たちの様子を遠巻きに伺っていることに気づいた。
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