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相良の部屋
「瑛斗、ベッド行くか。疲れただろ」
相良が手際よく瑛斗の後処理を手伝ってくれた。
瑛斗が覚悟を決めた時から、もう何時間も浴室にいる気がした。相良は手早くバスローブを羽織ると、瑛斗の体を軽くタオルで拭いて瑛斗にもバスローブを被せた。それに大人しく袖を通す。
「なあ、これ、綺麗にしなくていいの?」
浴室のそこら中に湯と欲が飛び散った浴室を見て、瑛斗は尋ねた。
「掃除してくれるから」
「……大変だな、使用人の人たちって……」
なんか、申し訳ないな。そう思いながら相良に引っ張られて、浴室にある2つのドアの内、入ってきたドアではないほうの扉を通った。すると、そこは寝室らしき部屋と直結していた。
「…………」
もう驚きはしないと思っていたが、その寝室を目の前にして茫然とする。
これ、何畳あんの?
自分の下宿のアパートの何倍もの広さのモダンな部屋に、キングサイズのベッドはもちろんのこと、バーカウンターやら、ホームシアターセットみたいなものやら、何人座れるのか見当もつかないような巨大なL字型のソファやらが、悠然と設置されていた。
「ここ、相良の部屋?」
「ああ、まあ。他にもあるけど。気分で変えてる」
「……そうか」
「瑛斗、なにか飲む?」
「ああ、水もらっていい?」
相良がバーカウンターの裏に回って、冷蔵庫から氷と炭酸水、グラスを2つ持って戻ってきた。案内されてソファに座る。相良が手早くグラスに氷と炭酸水を入れた。
「はい」
「ありがとう」
軽く頭を下げながらお礼を言って、差し出された炭酸水入りのグラスを受け取った。ふっと相良が笑った。
「瑛斗って、礼儀正しいよな」
「なんで?」
「ちゃんと、礼言うし」
「当たり前のことじゃん」
「……そうだな」
「そうだよ」
「なんか瑛斗見てると、じいちゃん思い出す」
相良が軽く笑みを浮かべてグラスを口にした。一気に水を飲み干すと、ふうっ、と息を吐いてグラスをローテーブルへと置いた。
「じいちゃん、礼儀とかうるさかったからな。礼はちゃんと言え、感謝の気持ちを忘れるなって」
「それ、大事なことだからな」
「わかってんだけど、俺には難しいんだよ。こんな捻くれた性格だし」
自分で自覚あんだな……。捻くれてるって。
「だから、さらっとできる、じいちゃんや瑛斗が羨ましい」
「焦ることないじゃん。できることからやったらいいし。それに、相良は他にいいところあるだろ」
「そうか?」
「そうだって。……多分」
「多分って」
「……相良のツッコむとこ初めて見た」
思わずふたりで顔を見合わせて噴き出した。笑いながら相良が自分のグラスに炭酸水を注ぎ足して話を続けた。
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