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もう1回だけ

「瑛斗に、初めて会った時な。昨日? もう、一昨日か。瑛斗、怒っただろ? 俺の手、跳ね除けて、失礼じゃねーのって」 「そんなんしたっけ?」 「した。そうやって、真正面から怒ったり、注意したりしてくるやつっていないんだよ、もう」 「……そうなの?」 「ん。みんな俺の顔色ばっか窺って、本音は出さない。だから信用できないし、特別仲の良い友達もいない」 「…………」 「そんなんだから、瑛斗がああやって怒ったのを見て、なんか懐かしい気がした」  じいちゃんみたいで。そう続けて相良が再びグラスに口をつけた。 「……やっと、会えたのにな」 「え?」  相良がボソリと言った言葉が瑛斗にはよく聞こえなかった。 「なんでもない」 「…………」 「瑛斗、そろそろ寝ようか。もう3時だし。疲れてるだろうし」 「うん……」 「明日、午前のフライトだったよな? 早く起きないとだろ?」 「……そうだな」 「心配しなくても、ちゃんと起こして、間に合うように送ってくから」 「うん……ありがとう」 「行こ」  相良が右手を差し出してきた。その手を掴んで立ち上がる。相良に引っ張られながらベッドに向かった。  その途中で、ふと立ち止まる。 「瑛斗?」  急に立ち止まった瑛斗に気づいて、相良が振り返った。 「どうした?」 「……ない」 「え?」 「まだ、寝たくない」 「だけど……」 「もう1回だけ……」  言い淀んで口ごもる。 「ん? なに?」  瑛斗は、羞恥心を捨てて相良を見上げた。一度だけ。我が儘になろう。素直になろう。これが最後なのだから。 「もう1回だけ、相良とヤりたい」 「…………」  相良の驚いた顔が目の前に現れた。瑛斗の言葉が予想外のことだったのか、相良もすぐに返事ができないようだった。 「相良を覚えておきたい。体の隅々まで、全部」  そう告げた次の瞬間、相良がふわりと笑った。嬉しそうに。その笑顔は、悪魔のそれでもないし堕天使のそれでもない。瑛斗が好きになった相良そのものの笑顔だった。  瑛斗は思った。たった1日で、こんなに人を好きになれることがあるんだな、と。

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