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エピローグ ①

 都会独特の喧騒の中、人混みをくぐり抜け、駅前の大通りを大股で歩く。少し足早に交差点まで急いだ。今日は就職先の入社式だった。瑛斗は慣れないスーツを着て、少し緊張しながら会社まで向かっていた。  ハワイ旅行から帰ってきて半年が過ぎた。その間、瑛斗は残りの大学生活をそつなく過ごし、山本共々無事に卒業を迎えることができた。  もちろん、あれから相良とは会っていない。直接は。実は、相良に関して全く知らなかったことがあとから明るみになり、それは瑛斗を多少動揺させる結果となった。 「…………」  交差点で信号待ちのために足を止めた。目の前のビルの屋上に掲げてある巨大看板を見上げた。  そこには、切れ長の鋭い目でこっちを見つめる色白の男が写っていた。高級時計の広告。  相変わらずすげぇすまし顔だな。  瑛斗は、その広告看板の中にいる相良をじっと見つめた。  ハワイからのフライトで日本に着いた直後、瑛斗はその事実にすぐに直面した。 『ヤマ……。あれ、なに?』  そう言って、瑛斗が指差したのは、空港の壁にずらっと並ぶ広告の1つだった。 『え? なにって……広告じゃん』 『いや、あの、写ってる人……』 『瑛ちゃん、知らないの? 結構人気のモデルだけど』 『……モデル?』 『うん。相良葵って。知らない? 日本でもかなりの人気だし、海外でも知られてるよ』 『マジか……』  そこで初めて、相良が体重管理しているだの、あちこち移動が多いだの言っていたことの理由を理解した。あの時は、他のことに気を取られて詳しく聞く余裕もなかったし、正直、相良の仕事内容に関して気にも留めていなかった。  全く気づかなかった……。  普段から読むものは漫画かスポーツ雑誌だけで、テレビもあまり見ないし、世間の流行りの動向などには全く無関心だった。相良に会ってなければ、この空港の広告も素通りだっただろう。現に、ハワイへ発つ時には見もしなかったわけだし。  山本の説明によると、相良はその長身とどっかの国の王子みたいな顔を武器にモデルとして活躍しており、世界中で引っ張りだこの人気振りだそうだ。 『でも瑛ちゃん、あの人がどうかした?』 『いや……その……』  瑛斗がその事実にしばらく衝撃を隠せないでいると、山本が不振な顔して、その広告を見て、なにか思いついたかのような驚きの顔をしてまた瑛斗を振り返った。 『瑛ちゃん……もしかして、瑛ちゃんの一晩の相手って……』 『うん……相良』 『えーっ!!!』  そのあと、山本はよほど衝撃だったらしく、うわぁ、マジで、凄いなぁ、をしばらく繰り返していた。

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