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エピローグ ②

 そんなわけで、瑛斗がいくら相良のことを考えないようにしても、日本にはそこら中に相良(の写真)が溢れていたため、考えないようにすることなど不可能だった。  それはかなり予想外のことで、最初の内は相良を見かける度に動揺していたが、最近ようやく見ても驚かずに眺めることができるようになってきたのだ。  それに。写真の中の相良は、瑛斗の知る相良とはなにかが違った。雑誌の表紙や、広告などのクールな相良は、実は別人ではないかとさえ思ったりもした。  瑛斗は知っている。相良がもっと優しい顔で、子供のような顔で怒ったり笑ったりすることを。  一時期、相良を忘れようと努力したことがあった。旅行から帰って少し経ったころ。好きでいても、もう会えないのだから仕方がないし、早く気持ちを切り替えて先に進みたい気持ちがあった。けれど、どうしてもできなかった。  あの、ハワイでの出来事はもう遠い昔のことのように感じるのに、相良の笑顔や、綺麗な手や、赤い唇や、引き締まった背中は、まるで昨日のことのように記憶に焼き付いたままだった。あの夜のことは、良い思い出のまま忘れないように記憶に刻んでおこうと自分が望んだことだったのに。いざここまで鮮明に瑛斗の意識の中に息づいていると苦しかった。  忘れようにも忘れられない現状に、瑛斗はついに諦めた。無理に忘れようとしても駄目なら、放っておくことにしたのだ。  時間が解決してくれる。そう思って。  まだ、たった半年前のことだしな。  そんなことを考えながらぼうっと広告を見ていたが、ふと信号がすでに青に変わっていたことに気づいた。慌てて歩き出そうと一歩踏み出したその時。ふいに後ろから聞こえてきた声に思わず足が止まった。 「見ぃつけた」 「…………」  空耳だろうか。今、あの聞き覚えのある声が耳に届いたような気がする。振り返ろうとしたが、意志とは反対に体が言うことを聞かなかった。確かめるのを拒否するかのように、脚が全く動かない。交差点を見つめながら、あの看板を見つめながら、そこに立ちすくむ。  看板の相良がニヤリと笑った気がした。 「……嘘だ……」 「嘘じゃないけど」  今度は、はっきりと聞こえた。 「……なにしてんだよ……」  看板の相良に顔を向けたまま、後ろの声の主に問いかける。 「なにって、瑛斗に会いに来たんだけど」 「……なんで今更……」 「ああ、ごめん、もうちょっと早く会えたら良かったんだけど、俺も俺なりに悩んだりしたから」 「…………」 「瑛斗」 「……なんだよ」 「こっち向いて」 「……嫌だ」 「なんで?」  泣きそうになる自分をぐっと堪える。 「……お前の顔見たら、もう、さよなら言えねーもん」 「……言わなきゃいいじゃん」 「…………」 「瑛斗。今こっち向かねーんだったら、この人混みの中で瑛斗に思いっきりハグして、キスするけど? 俺も久しぶりの再会で抑えられねーし」 「…………」 「瑛斗」  強めに名前を呼ばれる。瑛斗は、観念したかのように小さな溜息を1つ吐いて、ゆっくりと振り向いた。今度は素直に体が動いた。

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