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おまけ話 グラッパ
「あとは、片付けておくから。先に上にあがっててよ」
耳打ちするように囁かれた。
覚えてないって言っても、さすがに起きたとき、お尻の違和感には気付いた。
だから階段を降りたとき、どんな人に抱かれたんだろうと思ったし、冬雪の顔を見たとき、夢のなかであった人だって思った。
清潔に整えられた脱衣所で、今日はひとりで服を脱ぐ。
夢みたいだ。ずっと夢心地だけれど、本当に夢みたいだ。
さみしい年越しになると思っていた。お正月といっても、帰郷するつもりはなかったし、身体を休めて、また仕事始めの日になれば日常に戻っていく。
それが、目が覚めたら冬雪さんと出会っていて、この1年願っても叶わなかった夢が一気に叶えられていく。遅れてきたサンタさんからのプレゼントみたいだ。生まれてきてからこれまでサンタさんは来なかったのに、いい子にしていたからまとめて持ってきたよって目が覚めたら枕元に置かれていた。そんな気分だ。
お風呂場はすでに暖房がはいっていた。
「ねぇ、僕も一緒にはいっていい?」
頭を洗っていたら声を掛けられた。
「えっと」
「いいよね。昨日も一昨日も一緒に入ったし」
「あの、僕」
「間に合っちゃった。どうしたの? ずいぶんのんびり入ってない?」
含みのある言い方にドギマギする。
「もしかして、準備してくれてた?」
「あの、僕。昨日とかは記憶なくてだから、冬雪さんとお風呂にはいった記憶も」
「うん、だから今日は忘れないでね」
背後から声が近付いてくる。腕が伸びてきて、シャワーが止められる。
「ねぇ、あゆむ君。こっち向いて」
心臓の音が聞こえちゃうんじゃないだろうかってくらい高鳴っている。
「僕とあゆむ君、はじめてじゃないよ」
わかっていたけれど、名言されると余計に意識してしまう。
「再現してあげようか? あの日なにしたか」
大きな手のひらが頭を包み込んだ。
水晶みたいにキレイな瞳に視線を奪われて、身体が動かなくなる。
角度をつけて近付いてくる顔に反応できなかった。開けたままの口にそのまま舌を捩じ込まれる。くちゅりという音が響いて、口蓋の上をなぞられる。
「っ、はぁ……ん、んん」
巧みな舌に追い詰められて、捕らえられる。吸われるように引き出された舌が交じり合う。
長い指は耳のふちを指先で掻いていた。首筋からぞわぞわと快感が昇ってきて、膝が震えだす。手を引かれるように浴槽まで移動して、冬雪は浴槽のふちに腰掛けた。膝の上に座らされる。
足を開かされると反応した陰茎を隠す術はなくて、縋りついていないと滑り落ちてしまいそうだった。濃厚なキスに酸素が足りなくて頭がぼうっとしてきてしまう。
耳を弄っていた指が後頭部から掻くように背筋をなぞって降りていく。耳も背中も触られると弱くて、歩夢は身体を戦慄かせた。まろい双丘を割り開いた指が、ぬかるんだ秘所に行き当たる。
「やっぱり準備してくれてたんだ」
意地悪に瞳が細められて、真正面から視線を合わせられる。
「あゆむ君、エッチだね。可愛いよ、すごく」
後ろに指が突き入れられる。長い指が、あの魔法みたいなカクテルをつくるキレイな指が自分のナカに入っている。
「あっ」
意識すればするほど締め付けてしまう。無防備になった胸に先ほどまで口内を好きに暴いていた舌が、突くように絡められる。
「冬雪さん、どっちもはっ、ダメ!」
胸の先がジンジンする。快感が直接つながっているみたいに、触れられていない陰茎まで痛いくらいに反応を示した。瞳からも、先端からも雫が溢れ出る。
冬雪は攻め立てる指も、舌も止めずに蹂躙した。歩夢の反応がいいところを重点的に刺激する。
「冬雪さっ、アッ、も!」
激しい快感の連続に頭がおかしくなる。嘘みたいにあがる嬌声も、水音も反響して響いている。痛いくらいに勃起しているせいで余計に触りやすくなっているしこりを挟み込むように揺すられたらもうダメだった。チカチカと目の前がスパークして一気に弾ける。
「いくっ、イっちゃ、でるっ!」
白濁が弾けて、互いの腹を汚す。荒い息を整えながら、潤んだ瞳で冬雪を見れば鋭い視線に射抜かれた。
「寝室に移動しようか」
難なく持ち上げられて、脱衣所の壁に押し付けられてキスされる。少し乱暴な様子に興奮しているのが伝わってきて、振り落とされないようにしがみついた。
「あゆむ君、しっかり捕まってて。僕もそんな余裕ないから」
冬雪の言葉に必死になって頷く。
ベッドに組み敷かれて見上げた天井を、覚えていると思った。冬雪が覆い被さってきて、明るい色の髪から雫が落ちてくる。
「挿れていい?」
後孔に硬いモノを押し付けられて期待に喉が鳴る。
収縮した縁に先端が吸い付くみたいに纏わる。
「欲しい、です」
お腹の奥が切なく疼いて溜まらなくなる。圧倒的な質量で満たして欲しいと思った。冬雪の頭を抱え込むように手を伸ばしてキスをねだる。
「はやく、ちょうだい?」
「最高ッ!」
望みのモノが与えられた。
狭い入り口を抉じ開けるように入ってくる。肉襞が舐るように纏わりついて、奥へと誘うみたいだった。待望の質量を歓迎するように締め付ける。
「アッ、おっき」
感電したみたいに足の先まで痺れが走って、後孔を中心に身体がギュッと縮こまる。
「締まるッ」
冬雪が苦しそうに呻くけれど、力の抜き方が分からない。
「歩夢」
「アッ、冬雪さッ!」
絡めとられるように舌が重なって、指は敏感な胸の尖りを捏ねる。弛緩したように全身の力が抜けて、そうしたらまた奥に奥にと入ってくる。
さっきは一瞬だったのに、今度は昇りつめるみたいに高められていく。
「挿れるよ」
空白を一気に埋められて、満たされる。その衝撃に、先端から飛沫があがる。
全身が震えるほど、気持ちが良くて頭が真っ白になる。
「ハァ、気持ちいい」
「アッ、待って、僕。イったばっかで」
こんなに奥のほうまで擦られることがなかったから、快感の逃がし方が分からない。
冬雪が抽挿する度にいいところを擦られて、壊れたみたいに声が出る。
「冬雪さッ、アア、まって、アッ、ダメッ、またいくっ、イッ」
身体の芯から痺れるように、弾ける。
勢いを失わない白濁が反り返って自分の腹を何度も汚す。一層、強く締め付けて搾り取られるように冬雪も精を放った。
「歩夢、大丈夫?」
目尻に残る雫を掬い取る。シーツに両手両足を投げだした歩夢はいまだに余韻が続くようで、身体を震わせていた。
「ふゆきさ」
力を失くした声が弱弱しく放たれるのに、「お疲れ様」と声を掛ける。
「ぼく、今日はちゃんと忘れないよ」
どんな食後酒よりも、ストレートに効いた。
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