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朝立ちぬ
「ほら、おいで。あっためてあげる」
両手を広げた冬雪の胸に飛び込む。
夜は相変わらず、いっしょに寝ている。最高級のマットレスは難なく歩夢が飛び込んだ衝撃を吸収した。
「仕込みしてたの?」
「うん、出汁だけ」
冬雪の体温で温められた布団に冷えた身体が包み込まれる。
歩夢はよく眠る子なのかと思っていたら、そうじゃなかったらしい。冬雪が目覚めると、もう歩夢はいなくて朝ごはんの下準備をしてましたってことが、しばしばあった。
なかなか起きてこない冬雪を急かすこともなく、こうして布団に戻ってくることもある。
「本当だ、いい匂いがする」
歩夢の柔らかい手を掴んで、鼻先に擦る。
「おいしそう」
「え、あの」
その指を撫で擦るように指先を滑らせたら、歩夢の顔は赤く染まる。
さすがに舐めるのはと思って、キスをすれば肩が跳ねた。
「そんな可愛い反応されると、もっといじめたくなっちゃうな~」
唇は噛みしめているのに、目は雄弁に続きを期待している。
「触ってもいいでしょ?」
両手で頭を包み込んで、顔を近づける。鼻先が擦れあうほどの至近距離で見つめれば、歩夢は魅入られたように瞳を蕩けさせた。
「はい」
控えめな返事は、それでも肯定を示していた。抱え込むように抱き寄せて、身体同士が密着する。兆しはじめたモノが触れ合って、息を呑んだ。
「こっちは僕が触るから、下は自分で扱いてくれる?」
不埒な手がパジャマの裾から滑り込み、胸の飾りを摘まみあげる。
返事の代わりにひとつ頷いて、おずおずと下着ごと陰茎を露出させる。期待からすでに先端からは雫が滲み出していた。朝露のように透明な雫は、サラリとしている。
「んっ、ふあ、あっ」
たどたどしく言いつけ通りに扱く姿がいじらしい。可愛い声をあげながら必死になっているのが可愛くて、ずっと顔ばかり見ていた。
「冬雪さん、ぼくっ、もっ」
声にだんだん余裕がなくなってきて、比例するように水音が増す。グチュグチュと粘着性を増した水音に、歩夢の限界が近いことを悟る。
「いいよ、イくところ見せて?」
耳に直接注ぐように囁けば、歩夢の嬌声が一層高くなった。ビクビクと震わせる身体の中心で白濁が弾けている。
「上手にイけてえらいね。ふふ、可愛い」
荒い呼吸を整えながら、歩夢はまだ余韻に浸っていた。弄られた胸の先まで痺れている。
「冬雪さん」
「なぁに?」
「冬雪さんも」
「うん」
「イくところ、見たいです」
シルクのパジャマを押し上げる膨らみを歩夢の手が撫でる。
「いいよ」
真っ赤に紅潮した頬を包み込んで、舌を絡ませあった。
「ああ、節分だっけ。今日」
食卓に並んだメニューを見て今日の日にちを思い出す。
サラダ菜と卵の太巻き、イワシの塩焼きにタラの天ぷら。それから手鞠麹の浮かんだお吸い物。太巻きは食べやすい大きさに切り分けられていた。
「これは日本酒かなぁ。歩夢くん、日本酒は?」
「飲んだことないです」
「じゃあ、とっておきの出そうね」
お気に入りの酒器を用意する。切子グラスの揃いの酒器は、光にかざすと浅緑色が透けて見える。
「純米大吟醸は水だから。しかも精米歩合30%だよ? 雑味なんて感じないんだから」
注がれた透明を口に含む。飲み口は澄んでいて、口中に風味が広がる。後口はキュッとキレるのに、余韻はどこまでも華やかだった。
「美味しいです」
「飲みやすいでしょ? あ~、これは飲み過ぎちゃうやつだ」
歩夢の作る料理に合わせてお酒を選ぶ。そんな食卓が当たり前の日常となった。
お酒が主役のバーの世界にずっと身を置いてきたから、こうして料理と合うお酒を探すのは新鮮だった。飲み慣れていない歩夢にお酒を教え込むのも楽しい。
「太巻き、切ってあるんだね」
「冬雪さん食べづらいものあんまり好きじゃないでしょ」
「へ~、僕のためだ?」
「イワシもほぐします」
焼き魚を食べるのが苦手ってわけじゃないけれど、歩夢の箸さばきを見ていると食材を取り扱うプロは違うなぁと素直に感心する。それに世話を焼かれるのは単純に嫌いじゃない。
「司に毎日いいもの食べてるなって言われたよ」
「そんな、いいものだなんて大袈裟ですよ」
「そ~お? 僕はいいでしょって返したけどね」
褒めると照れるみたいで、歩夢はすぐ赤くなる。でも気持ちとしては嬉しいみたいで、口ではそんなことを言いながらも内心喜んでいることは知ってる。
こんなに素直でいい子なのに、仕事場では「褒められることなんてなかったですよ?」なんていうから分からない奴には分からないもんだなぁと思う。自分だったら隣に配置して手取り足取り、持ちうるすべてを教示したに違いないのに。
「どお? バレンタイン、何出すか決まった?」
「はい。あの練習台みたいで申し訳ないんですけど、今度の週末はそのメニュー作ってみてもいいですか?」
「いいよ、素敵なディナーにしようね」
おかげ様で楽しい週末にあやかれそうだ。
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