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おまけ話 アンコール
食事中も歩夢の口数は少なかった。
どこか緊張した様子で媚びるように名前を呼ぶから、「食事中だよ。我慢して? 歩夢」と嗜める。
叱られた歩夢は子犬のように肩を落とす。赤く染まった目元も、何かを我慢するように噤まれた口元も、歩夢の思考はありありと感じ取れた。
長く吐き出される吐息。佇まいを直して、フィレステーキを切り分ける。
ずっと見てられる。赤ワインがいつもより美味しく感じられた。
「冬雪さん、おねがい」
ホテルの部屋に着くと、スーツの裾を引っ張られた。
「なに?」
振り返ると勢いよくネクタイを引っ張られる。
ガクンと態勢が引き下がると、肩口を押された。たたらを踏んで後ずされば、ベッドのフレームにぶつかった。衝動にそのままベッドに尻もちをつく。
「歩夢?」
何も言わない歩夢は、そのまま膝の上に乗り上げてくる。
照明を背中にして、逆光になった黒い影が舌を出したのが一瞬、目に映った。
頭を掻き抱くようにして、引き寄せられる。無防備に開け放たれた口の中に熱い舌が侵入してくる。
「ふっ、んんっ、冬雪さん」
口内を貪る舌は生き物のように蠢いていた。舌が絡まりあい、ピリピリと舌先が痺れる。
「もう、我慢できない?」
荒い息を吐きながら、隙間を埋めるように唇が重なる。
キスに夢中な歩夢の弱い耳裏を爪先で掻く、ビクリと身体が跳ねて涙を纏った瞳が開かれる。熱を帯びた瞳の奥に、鋭い激情が揺れている。
「できない」
いつもはされるがままの歩夢が、積極的に求めてくるのは珍しい。
歩夢の理性の箍が外れるのを待っていた。
「ダメだよ、歩夢。ジッとして」
ラッピングを剥がすように丁寧に、歩夢のスーツを脱がしていく。
歩夢は手の甲に歯をたてながら、目を瞑っている。耳まで真っ赤にして呼吸は荒い。細い腰が揺れて、衣服が素肌に擦れるのも感じるみたいだった。
「あーあ、汚しちゃダメって言ったのに」
スラックスの前立てを開けば、反応したものが蜜を零していた。透明な液体が糸を引く。
「悪い子だね?」
歩夢は視線を逸らして、またキスを求めてきた。こんなに狡い誤魔化し方を、他に知らない。呼吸を奪うように、深く口付ける。
無意識なのか、裸の身体を押し付けてくる。角度を変えて口内を貪りながら、自由な両手で全身を弄った。全身が燃えるように熱くて、しっとりと汗ばんでいる。
まろい双丘を割り開いて指を押し込めば、指先が異物に当たる。
「ん、なにこれ」
引き抜けば、シリコンでできたアナルプラグだった。
「ずっとコレ、いれてたの?」
恥ずかしさからか歩夢は下を向く。
「歩夢。だんまり?」
「だって、冬雪さんがホテルとるっていうから。そういうことするんだと思って」
言い訳みたいに言う。どんどんと小さくなっていく言葉に、顔を覗き込む。
「僕のせい? ねぇ、歩夢がしたかったんでしょ?」
ひくつく後孔に、指を1本突き入れる。
「アッ!」
可哀そうなくらい反り勃った陰茎から少量の白濁が押し出される。
「指だけでイッちゃった?」
顔が燃えるように熱い。
「も、はやく」
冬雪のスーツに皺をつくって、必死になって言葉を紡ぐ。
「ちょうだい?」
「うん。わかった」
言えば、指が増やされる。
「それ、ちがう、ちがっからぁ」
ぬかるんだソコは難なく纏めた指を受け入れた。トロトロの内壁を擦りながら、指をピストンさせる。
「あ、やだぁ、やだっ」
「どうして? ナカに欲しかったんでしょ」
「イっちゃ、イッ!」
歩夢の身体が大きく跳ねて、今度は勢いよく白濁が吐き出される。
膝をついて折りたたまれた足が痙攣して、冬雪の上に座り込む。
「歩夢?」
息を整えている歩夢を覗き込めば、その瞳とかち合った。
「冬雪さんのも、勃ってる」
スラックス越しに揉みこむように撫でられて、冬雪は口角をあげた。
脱力した歩夢の後孔に待望の陰茎を宛がえば、それだけで身体が期待に震える。
「歩夢、挿れるよ?」
グズグズになった後孔に陰茎を埋め込んでいく。搾り取るような締め付けに、歯を噛みしめた。
「ああああ~、ん、アッ」
トロトロの内部が小刻みに陰茎を締める。脳髄まで痺れるような快楽に夢中になる。
「冬雪さんっ、ふゆきさっ」
呂律の回ってない声が何度も名前を呼んで、激しい抽挿に嬌声があがる。細い腰が揺れて、身体の間で歩夢の兆した陰茎が跳ねる。
「冬雪さっ、きもちぃ、きもち」
「歩夢、出すよ?」
奥まで打ち付けて熱い白濁をぶちまける。
「ふあ、ああ、アアッ!」
歩夢の強い締め付けに、同時に果てたのがわかった。
さすがにやり過ぎたかと思って、俯いている歩夢の髪をかきあげる。
放心した瞳は力なく光を失っていて、赤くなった目元を擦る。
「大丈夫?」
呼びかければ、虚ろな瞳がこちらを見上げた。
「冬雪さん」
「うん?」
弱々しい歩夢の声に、なるだけ優しく言葉を返す。手のひらに擦り寄るように、頬ずりしたかと思えば、濡れた舌が舐るように這う。
「もう、1回」
ベッドに押し倒されて、歩夢が馬乗りになる。
芯を残す冬雪の陰茎を、歩夢は自ら後孔に導いた。縁が盛り上がっていて、パクパクと口を開ける後孔が先端に吸い付く。
自重で挿入が深くなり、生き物のように蠢く肉襞を掻き分けるように沈み込んでいく。ナカを擦るたび、敏感な身体はビクついて冬雪の陰茎を締めつけた。
好きなように動いて、自分の好きなところに導いているけれど、その動きは怠慢でもどかしい。
「歩夢、震えてるばかりじゃ僕イけないよ?」
威勢よく求めた割には限界だったらしい。歩夢の膝がカクンと落ちる。
「もう、無理?」
「冬雪さんがやって?」
「うん。いいよ」
激しい下からの突き上げに最奥の壁が叩かれる。
壊れたみたいに白濁を吐き出して、顔は涙と鼻水でグズグズになっていた。
「アッ、ああっ、僕。またっ、アアッ」
最奥の壁が開いて、グプりと先端が入り込む。
声にならない叫び声をあげて、歩夢は目を見開いた。そのまま揺するように腰を前後させる。グプグプと先端が入口に咥えこまれる。
一層強い締め付けに、冬雪もまた白濁を吐き出した。
2人して呼吸を整えていたら、歩夢がゆっくりとした動きで冬雪のスーツに飛んだ白濁を指先で拭いとった。
「ごめんなさい」
舌で絡めとりながら、ちっとも悪く思っていない顔で歩夢は妖艶に笑った。
見知らぬベッドで目を覚ました。
眩しいくらいの陽射しに包まれて、真っ白のシーツを引き寄せて上体を起こす。
「おはよう、歩夢」
「冬雪さん?」
視線の先の冬雪はもう私服に着替えていた。窓際のソファセットで優雅にコーヒーを飲んでいる。
「歩夢も飲む? インスタントだけど。ああ、冷たいお水のほうがいいかな?」
冬雪が立ち上がろうとするのを、自分でやりますと静止しようとして自分が裸であることに気がついた。
「わっ!」
慌てて掛け布団に包まれば、ペットボトルの水を手にした冬雪にクスクスと笑われる。
水を手渡され、おまけとばかりにこめかみにキスされる。
「昨晩。楽しかったね」
情事を思い起こす台詞に一気に頬に熱が集中する。朧げな記憶が回想されて、歩夢は慌てて声をあげた。
「あの、スーツ!」
「ああ。クリーニングにだしておいたよ?」
「え、でも、僕」
「ちゃんと、ボディーソープで水洗いしといたから大丈夫だと思うけど」
段違いの頭の速さは言いたいことをすぐに汲み取ってくれる。
「すみません」
後始末をすべてやらせてしまった申し訳なさにベッドの上で縮こまる。
「ねぇ、歩夢。またやろうね」
冬雪の言葉に、歩夢は静かに頷いた。
ウイスキーは熟成させると豊かで濃厚になるけれど、この琥珀色の瞳をもった青年はどんな風に育つのだろう。時が経つのを、楽しみに待っている。
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