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第3話

体の奥に燻る火の塊が、何度も突かれる度に。 何とも言えぬ気持ちよさが、頭まで抜き抜けて。 一瞬で弾けるように体内に広がった熱は、その気持ちよさを倍増させ。 濡れた太腿までその熱に感化され、疼いて身を捩らせる。 こんなの……知らない。 体は真っ赤な花の模様で覆われ、無意識に奇妙な言葉を口走っているにも関わらず。 自分の身を蕩けさせるほど、休みなく襲いくる快感に、睿は酔いしれていた。 ずっと、ずっと……こうしてたい。 どうして……?  こんなこと……睦み合うことがこんなにも気持ちよかったなんて……。 「……睿ッ!」 「んぁぁっ!!」 白牙天の体内に宿した熱量が、睿の中に一気に放出され。 同時に睿の朱に染まる体が、大きくのけぞった。 「ぁ……あっ…………あぁ」 小刻みに震える睿が、小さく声を漏らすと。 途端に力が抜けた体を投げだし、ゆっくりと寝台に倒れていく。 薄れゆく意識の中、睿は身に降りかかった不運を。 過ぎ去った他愛もない記憶のように、うっすらと軽く、反芻していた。 爸爸のことも、あの金魚鉢の子も、俊杰のことも、夢のように微かで。 ……死んだのだろうか、僕は。 だからこんなにも、気持ちが良いのだろうし。 体が朱に染まるほどの、花びらが浮かび上がるんだと。 无花果ーー伝説の果実。 その実を食すれば、不老不死にもなり、神をも凌駕する力を宿すことができる。 従って一介の道士であっても、徳を得た仙人であっても。 そう、一国の王に至るまで。 どうあっても手に入れたい、口にしたい幻の果実だ。 果実といっても、普通の果実ではない。 〝无花果〟と言われる人の子が、そうなのだ。 无花果の特徴は、なんといっても全身を彩る赤い花の刺青。 当然、人の手によって施されるものではなく。 己の体に自然と浮かび上がる、神秘的な刺青で。 その花は、无花果を有する者によって異なる。 ある无花果の背中には、大きな石蒜が現れ。 別な无花果の胸には、鮮やかな紅梅が美しく咲き。 〝无花果を手中にすれば、天下を治めたも当然〟 でもそれもただの伝説。 无花果など、どこにも存在しない。 无花果など、御伽話に過ぎぬのだ。 「……」 柔らかな寝台の上で目が覚めた睿は。 窓から差し込む光に右腕をかざして、まじまじと眺めていた。 消えてる……。 あの赤い杜鹃花の花が、睿の体から綺麗さっぱりと消えていて。 そして、己が生きていた事にも甚だ驚いていた。 そんな睿の横には。 白牙天が小さな寝息を立てて眠っている。 固く閉ざした白牙天の目は、眠りの深さを物語っていた。 睿はそっと体を起こし、寝台からそっと降りる。 降りた瞬間、睿の肩に一気に不安と恐怖がのしかかった。 ……僕は一体、何者なんだ? 赤い杜鹃花の花が体に浮かび上がったり、白牙天に无花果と言われて……。 そうだ……!! 爸爸は?! 俊杰の屋敷に強引に連れて行かれて!! それで……!! それで!!  睿は白牙天の道士服を掴むと、無我夢中で転がるように外に出た。 「……はっ!」 外に出た瞬間、睿は息を飲んで立ち尽くす。 高い目線から、一気に見下ろす眼下の街並み。 こんな……こんな所にいたなんて……。 ここは、睿の住んでいる村の近くの山の中のか?! 道士服に慌て袖を通して、睿は一気に山の獣道を走りくだる。 ガサガサと音を立てて獣道の草木が揺れ。 走る睿の姿が、木々の間から見え隠れして。 その音が、はやる睿の気持ちをさらに掻き立てた。 逃げたんだ、僕は! なら、俊杰が一番先に報復に向かうのはどこだ! 誰だ!! ……爸爸しか、いないじゃないか!! 俊杰に拷問より非道いことをされて、死ぬ覚悟だったんだ、僕は! でも僕は死ぬことができてなくて、僕の趙家に亡骸なければ……!! 必然的に、その矛先は爸爸に向かうはずだ!! 僕は、どれくらい寝ていたのか?! 僕は、いつまで快楽に溺れていたのか?! どうか……どうか、無事で!! 爸爸!! ザァァンーー!! 青竜刀の刃が唸りをあげ、ザクッと地面に突き刺さり。 刃先が赤く濡れている、その奥にゴロッと音を立てて男の首が転がった。 その瞬間、取り巻いていた人々の騒めきが短い悲鳴に変わり、刹那にシンーと静かになる。 「……睿を、探せ!!」 青竜刀を手にしていたのは趙家の御曹司・俊杰。俊杰自らが手にかけた、首を落とされた男の背中を踏みつけ。 俊杰の数人の家来は、男の屋敷に土足で踏み込み、ありとあらゆる物をひっくり返していく。 「爸爸ーッ!!」 人混みの中から、男の亡骸に向かって叫ぶ声が聞こえ。 その人のぬうように、白い服を着た睿が姿を現した。 睿の呼吸が一瞬でも止まり、大きな瞳には絶望の色がみるみる広がる。 一方、俊杰は睿のその姿を目視すると、ゴクッと喉を鳴らし口角をあげて笑った。 「睿がいたぞ!!」 「俊杰……貴様ッ!!」 華奢な拳を握りしめ、絞り出すような声を発した睿は。 体をキュッと捻ると素早く走り出し、その拳を俊杰めがけて繰り出した。 誰もが。 睿が、俊杰の青竜刀の刃先を赤く濡らす、と。 そう思っていた。 「うぁっ……」 睿のくぐもった声が、小さく響いた。 俊杰の手刀が睿の肩口に入り、睿の体から力がガクッと力が抜ける。 白い道士服が風を孕んで、ゆっくりと睿の体を地面に引き寄せる。 意識を失って無防備な睿の体を、俊杰は難もなく抱えると。 無言で顎を動かし、家来に作業を止めるよう促した。 そして、冷たい眼光を宿して俊杰は言い放つ。 「逃げていたとはな……。俺はお前をみくびっていたよ、睿」 「あっ……や……やめ……」 「一度抱いただけなのにな。お前の下の口は涎をたらして、俺をすんなり受け入れているぞ?」 「んあぁ! あ……やぁ……やぁぁ!」 白い道士服がはだけ、睿の白い素肌が露わになる。 両腕を後ろ手に縛られ、冷たい床の上で無理矢理犯される睿に。 俊杰は容赦なく、その中を掻き乱して侵略していく。 目の前で父親を殺し、怒りで震える睿に手刀を落として。 俊杰は、気を失い縛り上げた睿に水をかけ、無理矢理犯した。 日が沈み、漆黒の闇が趙家の屋敷を塗り替え。 さらに空が白み出すまでの、長い長い時間。 噛まれ、中を激しく突かれ。 太腿を伝う白い液体に、赤い筋が混ざるまで。 涙を流しながらも、それでも必死に、犯されても抵抗していた睿が。 体の強張りがフッと消えて、俊杰の過酷な攻めに呼応しなくなった。 「善すぎて、眠ったか? 睿」 「……」 「悪いな。俺は止める気はないんだ」 「……」 「早くあらわせ、よ! 无花果の証を!!」

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