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第19話

 目を覚ました裏柳は、体中がとんでも無いく痛い事に気づく。筋肉痛だろう。あと、お尻がめちゃくちゃ痛い。  昨日、初めて発情し、漆黒に縋り付いて困らせた挙げ句、泣かせた気がする。  その気じゃない漆黒を無理矢理襲ってしまった。  漆黒、すごく辛そうな顔していた…… 「裏柳! 目が覚めたのか。良かった!」  部屋に現れた漆黒は裏柳を見てホッとした顔をした。 「すまない、むちゃくちゃ抱き潰してしまった」 「ううん。俺こそごめん」 「何でお前が謝る。体調はどうだ?」  謝罪を口にする裏柳に首を傾げつつ、漆黒は裏柳の額に手を当てた。  慣れない事をしたからか、裏柳は熱を出して一日寝込んでいのだ。鹿は大丈夫だと言っていたが、漆黒は心配で仕方なかった。  触れた額の熱は平熱まで下がっている様である。  ホッとした。 「熱は下がった様だが、まだ無理をするなよ」  そう、頭を撫でるが、無理をさせたのは何処の誰だである。  無理をさせて熱を出させた本人が良く言うと、内心、漆黒は自嘲的な嗤った。 「熱? そうか、心配をかけてすまない」  熱を出し、漆黒に介抱させてしまったらしい。本当に出来損ないのΩでセックスもままならないらしい。裏柳は恥ずかしくてどうしようも無かった。 「謝らなくて良い。俺が悪いんだ。本当に酷い事をしてしまった。すまない」  漆黒は徐にその場に正座すると、床に手を付け、頭を下げた。土下座の姿勢である。 「お、おい、止めろ」  それを見て慌てるのは裏柳だ。王様が土下座なんて何をしているんだコイツは。  ベッドを飛び出した裏柳は、漆黒の前に正座する。 「俺がセックスしてくれとせがんだんだ。お前は俺の望みを叶えてくれただけで、何も悪い事はしていない。無理矢理抱かせてしまった。申し訳ないのは俺の方だ」  裏柳も床に両手をついて土下座の形を取る。 「何をしているんだ。止めろ」  慌てて裏柳の肩を掴み、土下座をやめさせる漆黒。 「悪いのは俺だ。発情したΩは近くにαが居たらセックスをせがむのは当たり前だ。それは同意とは言わない。突っぱねなければいけなかったんだ」  そう続けて言うと、自分の未熟さを悔やむ。漆黒は眉間に皺を寄せた。  だが裏柳は、ムッとして声を荒らげる。 「俺はお前だったからセックスを強請ったんだ。他のαが居てもあんな事はいわない!」  自分がαと見たら誰にでも足を開く阿婆擦れだと揶揄されたと感じたのである。 「Ωは皆そう言うんだ!」 「俺は漆黒が好きだから漆黒の番になりたかった!」 「お前が好きなのは錫だろう! 俺は錫じゃない!!」 「何の話だ!!」  お互いに声を荒らげ口論になってしまう。 「お前が錫じゃないから何なんだ。錫は綺麗で可憐な美少女だった。それと比べて何だと言うんだ。確かに俺は錫が好きだったが過去の話だろう。大体何で錫の話になるんだ」  プンプン怒る裏柳は不機嫌に漆黒から顔を反らした。  だが、何だろう。話しが噛み合わない気がする。漆黒は違和感を覚えた。 「裏柳、あの、これ、覚えてる?」  漆黒は胸元からお気に入りの鈴の簪を出して裏柳に見せる。裏柳にやると言ったのだが、あの時受け取らなかったので、まだ漆黒が持っていた。昨日も髪をまとめるのに付けていた筈なのだが…… 「何だよ、お前がよく付けてる…… あれ? これ、錫の…… え? 錫の知り合いなのか? あれ、錫って俺の作り出した幻じゃなかったんだな」  簪についている鈴に見覚えがあるらしい裏柳は目をパチクリさせた。  どうりで話しがおかしいと思った。  酔っ払っていたからか、あの日の記憶が無かったらしい。 「これ、俺も見つけたんだ」  そう、裏柳がくれたシロツメクサの指輪を栞にした物を見せる。  白の王国に居た時は漆黒も魔法等使えなかった。その為に、裏柳と同じ方法で保管したのだ。 「えっ、それ……」  裏柳は自分の物を確かめる。ちゃんと本に挟まっていた。  ちゃんと有る。と、言う事は…… 「錫……」  ビックリした顔をする裏柳に、漆黒は小さく頷いた。 「錫! やっぱり俺の見た幻じゃなかったんだな。本当に居たんだ。会いたかった」  嬉しいそうに笑顔を見せると、漆黒に抱きつく裏柳。  ほら、裏柳は錫が好きなんじゃないか。  そう、漆黒は複雑な気持ちになった。 「そう言えばこの昨日も錫が弾いてくれたバイオリン弾いてくれてたもんな!」  そうだ! と、昨日の事を思い出す裏柳。寧ろ何故気付かなかったのか、俺は馬鹿なのかと思う。  嬉しそうな顔を見せる裏柳を他所に、漆黒は浮かない顔をしていた。 「俺は、もう可愛くても無ければ可憐でもないし、美少女でもない……」  そう少し不貞腐れている。  裏柳はそんな漆黒の様子に首を傾げた。 「俺は別に錫の容姿や性別が好きだった訳では無いんだが…… 錫が男でも好きになっただろう。元にお前が好きだと言っているだろう」  さっきから同じ事を何度言わせるのだ。 「俺は錫じゃない」  そう言って視線を反らしてしまう漆黒。悲しげに視線を下げていた。 「俺は錫も好きだったが、漆黒も好きだと言っているだろ! お前は! 俺が嫌いなのか?」  漆黒は何が気に食わないんだ! と、裏柳はイライラしてきた。折角再会出来たのに何故喜んでくれないのか。裏柳には解らない。 「好きに決まっているだろ!」   そう漆黒も声を荒らげた。 「じゃあ良いじゃないか。お互い好き合ってるんだろ?」  何の問題が有ると言うんだ! 「そうなのか?」 「そうだ!」 「本当に?」 「俺は嘘をつかん」   何故、疑われるのか、裏柳には解らない。心外である。好きだったなんて嘘をついてどうするんだ。そんな嘘は絶対につかない。 「俺も…… 裏柳が好きだ」  漆黒はそう口にすると、涙目で裏柳を抱きしめた。 「うん。漆黒が好きだ」  裏柳も抱きしめかえす。 「キスしても良いか?」  そう、目を見て聞いてくる漆黒。 「キスぐらいいくらでもしろ。小水だってやるし、セックスだって好きなだけしろ!」 「本当に!?」 「疑い深い王様だな!」  裏柳は、ハハっと笑ってしまうのだった。  仕方ないので自分からキスしてやる。  漆黒は頬を染めて嬉しそうな顔をするのだ。  カッコいい男前であるが、こういう顔は錫の面影があって可愛いなぁと思う裏柳であった。

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