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第20話
体調が戻ったら裏柳は漆黒の部屋に移り住むことになった。漆黒が部屋を整えてくれた様だ。裏柳の部屋は元々倉庫だったらしく、元の倉庫に戻った。
城内に不穏な動きも無く、お面を付けるなら部屋を出ても良いと言われ、城内を案内して貰った。すごく広いお城なので迷子になるだろうからと、部屋を出る時は必ず誰か共に付けろと言われた。確かに広い。
今は図書館で本を読んでいる。
漆黒も一緒に居て、紅茶を楽しんでいた。
「王、そろそろお仕事をして頂かないと……」
困った様子の羊。どうやら漆黒はおサボりらしい。
「愛妻とこうして平和な昼下がりを堪能していると言うのに、無粋だぞ」
そう漆黒は羊を睨むので、裏柳が軽く手を叩いて注意した。
「羊さんが困ってるじゃないか。仕事があるなら戻って下さい」
「えー、今、急な仕事無いんだけど……」
ちゃんと優先順位はつけているつもりである漆黒。今はバリアを邪魔する獣も居らず、安定しているし、不本意であったがうっかりがっつきセックスをしたお陰で魔力もたっぷり満タン補給出来ている。これならしばらく毎日の裏柳からの小水も飲まなくて良さそうであるが、それはもう毎日の楽しみであるので裏柳には黙っているのだが。
兎に角、差し迫った案件も無ければ安定しており、子作りはしなければならないだろうか、したばかりであるし、家臣たちも煩く行って来ない。差し迫ってやる事が無いのである。
ならばこの穏やかな時間を妻と過ごす事に使うぐらい許されても良いのではないか?
「王は宴を開く事をお忘れてですね。それから灰男の処分はどう致しますか?」
困った様子の羊は仕方なくここで仕事を始める事にした様だ。
「そうだったな」
ポンと手を叩く漆黒。
思いの外早く犯人が捕まってくれたものだから、余計な宴を開かなければいけなくなってしまった。
今更中止と言うわけにもいかない。
灰男の処分も決めなければいけなかった。
羊やワニ、虎の処分もであるが、これは裏柳が許すと言うので不問にしてやったのだが。
「取り敢えず、灰男は鞭打ちに加え、晒し者にし、島流しにしろ」
「なんだと!」
とんでもない酷い仕打ちであると、立ち上がって怒る裏柳。
漆黒はビックリしてしまう。
「本当ならば処刑する案件だが?」
それを島流しにしてやろうと言うのだ。まぁ、殆ど海に落ちるか獣か魔物に殺されるだろう。だが運が良ければ無人島で生き残れるかもしれない。
「俺の事を助けてくれたんだぞ!」
灰男が居なければ、裏柳は獣に輪姦された挙げ句、殺されていた事だろう。裏柳にとっては命の恩人でもある。それを鞭打ちした上に晒し者にし、島流しにするなど酷すぎる。
「灰男に聞いた所によれば、お前が人間だと解り、俺の妻であると勘付いて洗脳しようとした様だ。だが無理だったので家に連れ帰り監禁したと言っているぞ。奴隷にしようと思ったと言っている。しかも、灰男がやっつけたと言う獣も虎によればお前を心配して追わせた使い魔だったそうだ」
灰男は動物を操る力が有り、それは人間にも適用する様だが、どうにも裏柳には効かなかった様である。
「それにしたってあんまりだ。力封じでもして家に返してやれば良いだろ!」
「家は燃してしまったぞ」
「は!? 酷い!! 漆黒がそんな酷い人だとは思わなかった!!!」
裏柳はプイッと漆黒から顔を反らし、プンスカした様子で図書館を出て行ってしまう。
「おい、裏柳!」
後を追いかけようとする漆黒を引き止める羊。
仕事をしろと言う顔だ。
まぁ、虎が着いて出ていったので迷子になる事は無いだろう。
ハァと溜め息が出てしまう漆黒。
灰男は黒の国を危険に晒したのである。
本当なら処刑台に上がらせる所だ。
それを島流しにしてやると言うのだ。寛大な処置だと思って欲しい。
代々受け継がれ捻じ曲げられた思考のせいだと、少しばかり譲歩してやったのだ。
それを力封じだけして普通に家に返すとなれば、皆が黙ってはいない。それに王としてのメンツにも関わる。
これ以上の減刑は出来きない。
「王、私は懸命な処分かと思います」
頭を抱えてしまった漆黒の肩に手を置く羊。
「ああ、仕方ない。この件はさっき言った通りにしてくれ」
裏柳に幻滅されても仕方ない。これは王としての己の判断である。いくら愛する妻に嫌われようとも心を鬼にして対処しなければならないのだ。
「解りました。で、宴の方は? 急遽だったので名目を決めておりませんでした。名目はどうしますか?」
「交流会では駄目なのか?」
「普段、宴など開きませんのにそんな簡単な名目では不振でしょう。私も『必ず出席』としてしまいましたのに、ただの交流会では呆れられてしまいますよ」
「そうだな……」
なるべく全員に出席して欲しいくて重大な物だと思わせてる文面にしてしまった。普段開かない城での宴の上、重大案件そうなので全てのリーダーが出席である。
もうお祭りだと国民ははしゃいでしまってる様子だ。
「仕方ない。呆れられるだろうが裏柳のお披露目会にしよう」
「本当に呆れられますね」
「他に何か良い文句でもあるか? 裏柳の誕生日会か? もっと呆れられるぞ」
「そうですね」
苦笑する羊は、裏柳のお披露目会で手を打った。
さて、問題は裏柳が出てくれるかである。
たった今、機嫌を損ねてしまった所だ。
「ワニに絶品アイスでも作らせるか」
裏柳は甘い物が好きだったはずである。
甘い物で機嫌を取ってみよう。
安易であるが、漆黒には今、それしか思いつかないのであった。
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