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第21話
つい怒って飛び出して来てしまった裏柳だが、落ち着いてくると漆黒の采配は仕方なかったと思う。
確かに灰男は、長年漆黒を苦しめていた張本人である。
国を危険に晒していたのだ。
可哀相だが、妥当な判断だと思う。
それなのに漆黒に酷い事を言ってしまった。酷いのは俺である。
裏柳はしょんぼり項垂れていた。
今は気分転換にと虎が連れ出しててくれた中庭で花を見つめながらボーッとしている。
部屋に閉じ込められて居た為、ストレスが溜まっていたのだろうと、虎はハーブティを用意してくれた。
黒の王国にしては珍しく霧が晴れ、穏やかな昼下がり、裏柳はひっそりとした庭で読書をし、気分を落ち着けるのであった。
裏柳が中庭に居ると聞いて、デザートを持って来た漆黒であるが、虎にシーっとされ、見るとベンチで眠ってしまっているのが見えた。
「お疲れだったのでしょう寝てしまいました。反省していましたよ」
足音を立てない様に気を付けつつ近づく漆黒は虎を睨む。
仕方なかったのかもしれないが、虎が裏柳の肩を抱いて支えているのが気に食わない。
「場所を変わります」
虎は苦笑してゆっくり体制を変えると、漆黒に場所を譲った。
漆黒は自分のマントを外して裏柳に掛けてやるのだった。
優しい歌声が聞こえる。ああ、錫だ。錫は歌が上手かった。この歌声を聞くと心が安らぐ。
裏柳は心地よさを覚えつつ、目を開く。
「起きたのか?」
声が聞こえ、視線を向ければあまりに怖い顔があってビックリしてしまう。
「ギャア!!」
「うわっ!」
悲鳴を上げられた上に平手打ちを食らわされ、漆黒も驚いた。
まさか妻に夫であるはずの自分が悲鳴を上げられた上に平手打ちまで食らわせられるとは、誰が思うだろう。
ショックが大きすぎる。
「ご、ごめん。漆黒か」
あっと、口を抑える裏柳。やはり寝起きにお面の漆黒は心臓に悪すぎるものがある。しかも可愛い錫の夢を見てた時にはもう駄目だ。ギャップがジェットコースターだった。
物凄く申し訳なさそうな顔をする裏柳に、漆黒も申し訳なくなる。
魔物や獣に舐められない様にと怖いお面を着けているが、そのせいで妻にまで怖がられてしまうのは不本意過ぎる。
「えっと、さっきもごめんなさい。漆黒の判断は間違っていなかったのに怒っちゃって……」
「ああ、いや、それは良い。だが決定は覆せないぞ。灰男は島流しにする」
「うん。仕方ないって解ってる」
「裏柳は優しいな」
優しいから灰男の事まで心配してしまうのだ。ヨシヨシと頭を撫でてやる事しか出来ない。
「ワニに甘いアイスを作って貰ったんだ。これでも食べて機嫌を直してくれ」
「え? 俺、別にもう機嫌悪く無いけど……」
「折角作って貰ったんだ食べてくれ」
「有難う」
ワニが作ってくれたデザートのアイスを貰う。
ちょっと溶けていたが美味しかった。
でも……
「俺はアイスより漆黒が歌ってくれた方が元気になる」
さっき歌ってくれたから機嫌が良くなったのだ。
甘い物より漆黒の歌が聞きたい。
「そんな可愛い口説き文句を何処で覚えてくるんだ」
思わずキュンとしてしまう漆黒。裏柳は本当に魔性である。
漆黒も機嫌を良くしてバイオリンを取り出すと、弾きながら歌ってあげるのであった。
裏柳も鼻歌で合わせる。
懐かしい気持ちになり、顔を合わせると微笑み合う漆黒と裏柳である。
邪魔しない様に離れた所から護衛していた虎も(自分、忘れられているな)と思いつつ、二人の様子に和むのだった。
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