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第22話

 フラミンゴが裏柳の着付けをしている。  今日は例によって開催される『王妃お披露目会』の日である。お披露目はもう済んでると言うのに違和感が満載であるが、今回は挨拶周りも兼ねていると言う事で誤魔化した。裏柳はあまり乗り気では無いが、決まってしまったものは仕方ない。  全部灰男のせいである。  灰男の島流しも済み、黒の王国は稀に見る賑やかさである。  今日の市中はお祭り騒ぎだそうだ。  種族を超え、魔物も獣、動物達まで仲良く楽しんでいると言うのだから驚きである。  知能のある魔物や獣は漆黒が統括しているし、知能の低い獣や動物達は裏柳が助けた事を伝えてくれたらしく、陰で崇めてくれている様だ。特に鳥が広告してくれたらしい。  黒の国は始まって以来の平和が訪れたと皆浮き足立っているのだ。   漆黒の仕事量もかなり減り、裏柳と過ごす時間も増えた。  二人とも幸せである。 「裏柳、支度は終わったか? うわっ!」  部屋に入った漆黒は裏柳の顔に驚いてしまう。  般若の様に恐ろしい顔だったからである。  ああ、お面を付けているのかと直ぐに解ったが、確かにこれは心臓に悪いお面だと染み染み思ってしまった。 「何だよ『うわっ』って」  じとーっとした目で見られ、漆黒は苦笑してしまう。  フラミンゴが「支度は済んでいますよ」と教えてくれたので、漆黒はそのまま裏柳を連れて大広間に向かうのであった。  大広間には既に各種族のリーダーが集まっている様子で、漆黒と裏柳が会場に姿を見せると歓声が上がる。 「おお、我らが王と王妃様だ」 「この度は素晴らしいご活躍をなされたとか」 「いや、しかし王妃様には動物と会話なされるお力が有るとか、いやはや此程までに王のお力になれる妃様は居られませんな」 「後はお子に恵まれたら黒の王国も安泰です」  そう寄ってくる魔物達が口々に言う。  しかし、やはり魔物は魔物である。殆ど裏柳より背が高く漆黒よりも高い者もザラにいる。その上に容姿が怖すぎて圧迫感が凄すぎるのだ。 「こら! テメェら、そう急ぐんじゃねぇよ。我が妃が怯えているじゃねぇか! 頭が高えんだよ!!」  漆黒が柄悪くそう声を上げれば、ハッとした様に集まった魔物が膝をつき、頭を下げる。 「ご無礼を」 「どうかご容赦のほど」  魔物達は申し訳なさそうに謝る。漆黒は「うむ、解れば良い。面を上げろ。挨拶は順番だ」  漆黒の言葉に、さっと、列を作る魔物達。   怖いはずの魔物達も何だか可愛くて見えて来た。 「私は、猫系の魔物一族の長。以後お見知りおきを、妃様」 「私は、犬系の魔物一族の長。宜しくお願い致します」 「私は……」  15種類の魔物一族の長が順番に裏柳に挨拶し、頭を下げた。  それから個々にダンスに誘われ、体格が違い過ぎて殆ど抱き上げられていたが、ダンスを楽しんだり、当たり障りのない会話を楽しむ。  この辺りは白の王国の王の側近だった頃に学んだ事か活かせただろう。  社交辞令も有るだろうが、皆『王妃は博識で話しが面白い』と言ってくれた。  しかし、やはり体力面に差がありすぎる上に、漆黒が側に居るので安全だと解っていても魔物は怖い。  相手をするのに疲れて来てしまった。   漆黒も裏柳が疲れている事に気づき、休憩する様にと、近くのソファーに運んでくれた。  危険は無いと思うが念の為にと側に虎が待機してくれている。  虎は猫系の魔物長と、仲が良さそうだ。  そうか、虎も猫系か等とぼんやり考える。  漆黒はまだ忙しそうだ。  沢山の魔物に囲まれている。  裏柳はソッとソファーから立ち上がり、バルコニーに出た。  夜風が気持いい。  街の明かりが遠くに見える。  街と言っても商店等も普段はなく、広場と酒屋が少し有るだけの様であるが……  普段はゴロツキがたむろっていると聞いた。  いつもなら夜に明り等見えない。  今日はやはり賑わっている様である。 「今晩は王妃様」  突然声を掛けられ横を見た。 「鳥族の長さん」  鳥族の長は孔雀の様な羽を持った美人で、目を引く。 「お疲れの所、お声をかけてしまい申し訳ありません。私のペットが大変お世話になりまして、妃様の話はよく聞いています」 「ペットですか?」 「大きな鳥なのですが、私が甘やかしたせいか懐きやすくて鈍感な子なんです。妃様に害をなそうとしたとか、操られていたとは言え大変な事を…… それなのに助けて下さった上に匿って下さったとか。感謝のしようもございません」  申し訳なさそうに頭を下げながら話す鳥の長。 「ああ、あの鳥ですね。貴方のペットだったとは気付かず城に置いてしまって申し訳ありませんでした。鳥には私もお世話になりましたよ。有難うございます」  鳥族の長はどうやら鳥の飼い主らしい、ご主人様の所へ帰ると、裏柳の元から離れてしまったが、それでも二日に一回は遊びに来ている。まさか鳥族の長がご主人様だったとは。教えてくれたら良かったのにと、思ってしまう裏柳。 「貴方のお陰で種族の垣根を超え、こうして夜にお祭り騒ぎ等出来る様になりました。まるで夢の様ですよ。本当に感謝しております」  鳥族の長も感慨深そうに明かりを見つめる。そして裏柳の前に跪き、深々と頭を下げるのだ。  裏柳は少し考えてから、ソッと手を差し出す。  自分が頭を下げる訳にはいかないので、これが精一杯の挨拶だった。  鳥族の長も裏柳の意を汲み、裏柳の差し出した手の甲へ優しく口づける。 「裏柳!」  突然、腕を強く引かれ、驚く裏柳。  何かに抱きとめられていた。見上げれば、漆黒である。  怒りの色を感じた。 「鳥族の長! 妃への口付けは許してねぇぞ」  そう、鳥族の長を威嚇する漆黒。  鳥族の長は怯えた様子で縮こまる。 「俺が許した。手の甲へのキスは敬意の表現だ。何の問題がある」  何をそこまで怒るのかと、裏柳は鳥族の長を庇う。   鳥の飼い主ならば、もう仲間の様なものである。その仲間を理不尽に萎縮させるのは許せない。 「駄目だ。お前の全てが俺の物だ! 俺の許可が無ければお前が許可したとしても許されない」 「はぁ? 何だそれは。俺の人権は無視するのか?」  とんだ言いようである。俺の体は俺の物だ。お前の物ではない。  そんな風に考えていたのかと思うと、怒りと同時にショックを受ける。 「申し訳ありませんでした。どうかご容赦の程を……」  頭を下げて震える鳥族の長。 「鳥族の長が謝る必要は有りません。漆黒。お前が謝れ!」  あまりにも理不尽過ぎると感じ、裏柳は漆黒を叱りつける。 「貴様、妃の分際でどの口を聞いている! 付け上がるなよ!」  漆黒は、声を張り上げた。  裏柳を強く掴むと、部屋に連れ戻し、ベッドに投げる。そして直ぐにまた消えてしまった。  おそらく会場に戻ったのだろう。  酷い! 漆黒のバカ野郎!!  信じられないパワハラだ。  裏柳はムカムカしだし。腹が立って仕方ない。それと同時に酷く傷ついていた。  対等だと思ってくれていると、大事にしてくれていると思っていたのは自分だけ。  漆黒は俺の事を物だと思っていたんだ。  好きだと言ってくれたのに。あれは嘘だったのかと。  そう思うと悲しくなってきた。  だが、泣いている場合ではない。  鳥族の長が心配だ。  裏柳はバルコニーに出ると、鳥を呼ぶ。  鳥は口笛を吹けば直ぐに来てくれると約束していた。

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