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第24話
「裏柳様ーー」
「裏柳様ーー」
夜の森に響く声。家臣達は総出で裏柳探しをしていた。
裏柳ならばバリアを通り抜ける事は出るだろうが、最近は出て行こうとする者が居ないのでバリアの強度を少し落としはしたものの、万が一に出れたとしても直ぐに漆黒には解る。
裏柳が完全に外に出た可能性は無かった。
周りを守る兵達からの連絡なしも無い。
まだ近くに居る可能性が高かい。
しかし何処に行ってしまったんだ。
漆黒は心配で堪らない。
初めの頃ならば、逃走される事も考え、常に監視できる様にしていたが、今は仲良く同じ部屋で過ごし、毎晩毎朝おやすみなさいのキスとおはようのキスは欠かさはい間柄になっていた。ここに来てまさか脱走されるとは思っても見なかったのである。
監視できる様にしていなかった。
魔物達は統括出来ているし、その長達からの裏柳の印象も悪くは無かった。寧ろ気に入りられている様子であるし、裏柳は獣や動物に好かれる。問題無いとは思うが……
本当に下種の獣達はどうしようも無いのもいる。裏柳の言葉に耳を傾けないような酷い獣とか、謀反を企てている魔物が居ないとも限らない。
漆黒は最悪の事態ばかり考え、胃が痛い。
家臣達には城で待機する様に言われたが、居ても立っても居られない漆黒は城を抜け出し、自分で探しに向かうのであった。
城を抜け出してしまった裏柳は鳥と広場近くの木の上に居た。
思わず国に帰ると飛び出して来てしまったが、漆黒の事である、バリアを抜けても解るだろう。連れ戻されに来るかも知れないし、来なかったら来なかったで寂しい。
そもそも裏柳とて本気で帰ろうと思って抜け出して来た訳では無い。
呼んだ鳥により、漆黒が鳥族の長にお咎めも無く、無事に家に送り帰した事は知っていた。
それに漆黒が怒った理由も解った。
この国では体の何処かへの口付けは性行為の同意と取られるらしい。
それは漆黒が怒るのも無理はない。鳥族の長にも申し訳ない事をしてしまった。
鳥は『主は知識に長けているから、夜のお誘いで無いと解ってると思うよ』と、言ってくれたが、長が解っていても周りの目もある。漆黒には浮気だと誤解させてしまった。そうでなくても周りから王の妃はとんだ阿婆擦れだと思われた事だろう。
裏柳は顔から火が出る程恥ずかしかった。
しかもそうとは知らず、人目も憚らずに王である漆黒に口ごたえをしてしまった。
王である漆黒が王妃になじられるなど飛んでもない事である。
威厳も尊厳も失墜させる様な事であった。
本当に身の程知らずも良いところである。
ただでさえ漆黒は人でありながら魔物を束ねる王である。舐められたら終わりだ。
何故、俺はあんな場所であんな物言いをしてしまったのだろう。
冷静になれば解るのだ。
俺が全面的に悪かった。
漆黒が激怒するのも解るし、きっと幻滅させてしまった。
白の王国の王の側近である自分が何故解らなかったのか。
白亜が王妃になじられ、家臣の前で謝らせられたりしたら、俺は王妃を許さないだろう。早く別れさせる。その王妃は王を支える器では無いと見限る。それが白亜の為であるとも思うのに……
漆黒の側に居ると冷静で居られなくなってしまう。
こんな俺では漆黒の足手まといだ。王妃の器では無い。
漆黒を王として以前に人間として愛してしまったから。
漆黒が優しすぎるから。
どんどん我が侭になっていく。
そんな自分に裏柳は嫌気がさし、怖くなってしまった。
自分はこんなにも女々しかっただろうか。
自分が最低で、許せなかった。
書き置きには『漆黒が解らない』と書いてしまったが、本当には自分が解らなくて逃げて来てしまったのだ。
何処にも行く場所なんて無いのに。
遠くから『裏柳様ーー』『裏柳様ーー』と名前を呼ばれて居るのか聞こえる。
折角みんな楽しくお祭りしているのに水をさしてしまう。
幸い、まだ広場で楽しんでいる魔物や獣、動物達はこの事態に気付かず、楽しそうに踊り騒いでいるが。
楽しそうだ。
俺だって見ず知らずの大きくて怖い毛むくじゃらの魔物達では無く、漆黒と踊りたかった。
出来たら祭りだって楽しみたかったし、一緒に花火も見たかった。
王に王妃が望むには我が侭が過ぎるだろうか。
そもそも
「漆黒は本当に俺を愛してくれているのだろうか」
そうポツリと漏らしてしまう。
番にだってしてくれないのに……
Ωが愛し合うαに番にしてくれと言うのはそんなにも大それた願いなのだろうか。
子供も作れないかも知れないから?
いつでも手放せる様にしてるとしか考えられない。
愛してる。好きだと何回言われたって、番にしてくれなければ不安であった。
でも子供も作れないかもしれない出来損ないのΩを番にしてソレだけを側に置くのは王としてはどうなのだろうか。
やはり白亜がそんな事をしたら、俺はもっとちゃんとしたΩを側に置かせるだろう。ハーレムを作って無理にでも通わせる。
だけど漆黒がハーレムを作って俺以外と子作りするなんて嫌だ。
辛くて悲しく苦しい。
漆黒なんて好きになるんじゃなかった。
俺は馬鹿だ。
裏柳は足を抱えて泣いていた。
鳥が心配そうに翼で隠してくれる。
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