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第34話

 その日は朝から漆黒の姿が見えなかった。  何処に行ったのだろう。  最近は暇をしている様で昼過ぎはいつも一緒に過していたと言うのに……  今日はお誘いが無かった。  少し寂しさを覚えつつ、裏柳は一人、図書室で本を読んで時間を潰した。  漆黒は気持ちが変わらない内にと、魔法で姿を変え、白の王国に足を向けていた。  変えると言っても少し色を抜くか強く補正するぐらいしか変化を付ける事は出来ないので、殆ど錫の容姿になってしまうのだが……  錫の姿でも特に覚えている者は居ないと思われるので問題は無いのだが、裏柳の様に万に一人ぐらいは記憶に錫が有る恐れも有る。  それに一応、黒の王国の王は不特定多数に素顔を見せてはならない掟も有った。  漆黒は肌の色を褐色に補正し、フードを被って誤魔化す。  黒の王国から白の王国に侵入するには膨大な魔力や力を消耗するので、この姿は長くは持たせない。  急いで見つけなければ。  代々、黒の王国の王にはΩの能力を感じ取れる事か出来る。繁殖力に優れたより優れたαを産み落とせるΩを見極める力である。  女でも男でも構わない。  白の王国では優秀なΩは城の付近に住まわせる。メイドとして雇われている事も多い。  城に潜入するか、辺りで見繕うか。  思案している最中であった。  隣に馬車が止まったのだ。  漆黒は焦った。  本当に危険な様なら直ぐに姿をくらませ黒の王国に逃げる事も可能であるが、消耗が激しすぎるので出来るだけ避けたかった。  Ωを連れて帰らず消耗するだけして戻れば裏柳に負担をかける事にもなりそうだ。 「君、見かけない顔だね。この辺の者では無いだろう。何の用かな?」  そう漆黒に声を掛けたのは他でもない。この王国の王である白亜だ。  本当についていない。 「人を探しています」  漆黒は仕方なくフードを脱いで膝をつく。 「旅の方だね。どんな人を探しているのかな?」  優しい顔をで笑って見せる白亜であるが、コレが腹黒だと知っている漆黒は、怪しんで距離を取った。 「警戒しないで欲しいな。僕はこの国の王だからね。国民の事は全て把握している積もりだよ」 「はい、Ωなんですけど……」 「うちの国はΩが特産みたいなものだからね。範囲が広すぎるよ」 「……はやり、結構です」  確かにΩを探しているが、連れ去る予定のΩをこの国の王様に聞くのは、はやはりどうかしている。 「まぁ、そう言わずに、城で話を聞こう」 「いえ、結構です」  何故ただの旅人風情を城に招い入れるんだ。  絶対何か怪しまれた。  逃げなければ。漆黒はそう思って逃げの体制に入る。  だが、気づけば王国の兵士に囲まれてしまっていた。  不味い、退路を塞がれている。  白の王国は武力や魔力に弱いが、婚姻で人脈を増やして対応している。かなり強い魔力を持った者を青の王国から借りている様だ。  力では此方が確実に上であるが、無傷で済ませる事は出来ないだろう。  困った。 「ああ、ごめんね驚かせてしまったよね」  白々しい言い方をする白亜を思わず睨んだ。 「なんだか何処かで会った事か有る様な無い様な。不思議な感覚があるよ」  そう此方を見て首を傾げる白亜。  錫である自分を覚えいるのは裏柳が特別であって、基本的に白の王国の者は錫については覚え無い筈である。  白亜が違和感を感じるのならば、何か相当強い感情を錫に感じていたのかも知れない。それでも覚えている筈は無いのだが……  万の一人がまさか此処にも居たのだろうか。万の一人が多発するのは勘弁願いたい。 「まぁ、良いや。この子を何処かで見なかったかな?」  白亜はそう言うと一枚の写真を見せてくる。  そこに写るのは紛れもなく裏柳の姿であった。  咄嗟に首を振る。 「そうかい、残念だよ。この子、僕の最愛の人なんだけど…… 急に神隠しに合ってしまってね。忽然と消えてしまったんだ。何処を探しても居なくてね。足取りさえ掴めない。本当に消えてしまったんだ」  白亜は辛そうに表情を歪めると、写真を大事そうに抱きしめる。  あの時、しっかり姿を見せてしまったが、基本的にバリアを堺に記憶はリセットされてしまう。  なので姿を見せた所で黒の王国の王の記憶は誰の記憶には残らないのだ。  だから黒の王国は幻とされているのだろう。  勿論この記憶さえ、ここから漆黒が姿を消せば誰の記憶にも残らない。  それこそ1パーセント、裏柳の様な者が居て覚えているのかも知れないが、ただの妄言と思われる事であろう。  どうやらあの時、姿を見せた自分を覚えていないのならば、白亜は錫の事も覚えていない筈である。  漆黒は内心ホッとした。 「君にはこれを聞きたくて足止めしただけなんだ」  白亜はそう言うと写真を片付けつつ漆黒を見た。  大袈裟な足止めの仕方であるが、裏柳を想うあまり形振り構わず旅人と見たら足止めしているのだろう。  白亜は錫の頃から見ても裏柳を溺愛していた。気付いていないのは本人だけであった。  取り敢えず、これで開放される。  漆黒そう思った。 「拘束しろ」  白亜の冷めた声が響いた。  兵士達も一瞬驚いた様子であるが、直ぐに漆黒を取り押さえにかかる。  漆黒は逃げるタイミングを失ってしまった。  最近、黒の王国は平和そのもので、緊張感が抜けてしまっていたのかもしれない。  魔力を使えない様にする特別な紐で縛られてしまい、抜け出す事も容易には出来そうになかった。  漆黒は『どうして?』と言う表情になる。  何故、自分は捕まったのだろう。  特に粗相は無かったと思った。  取り押さえられる様な不躾な真似をしたつもりも無い。  本当に何故だか解らないのだ。 「ごめんね。なんだか君の事を見ていると無性に腹が立つよ。憎々しくて仕方ない。何故だか解らないけどね。そうだな。きっと僕の感だよ。僕の感が君を捕らえろと言うからそれに従う」  困惑した様子の漆黒に、白亜はそう説明した。  「牢屋に閉じ込めておけ」そう、兵士達に命令を出したのだった。  昔から感の良いやつだとは思っていたが、ここまでとは。  理由はかなりの暴君であるが、その感が的中しているので怖い。  覚えていない筈なのに、感情では覚えているのだろう。  敵ながら天晴だと、関心してしまう漆黒である。  だが、呑気き関心している場合じゃない。  本当に不味い事になった。  牢屋は勿論、魔力阻害装置があるはずである。  いくら文武両道、魔力も桁外れの化け物と言っても過言ではない漆黒にとっても白の王国の牢屋を破る事も、その場で黒の王国へ瞬間移動する事も無理であろう。  元に今縛られてる紐に阻害され、瞬間移動出来ない。  万事休すである。  もう自力で逃げ出す事はままならない状態に陥っていた。  一番不味いのは国境を隔てる隠されたバリアだ。  もって三日だろう。  以前なら少なくとも一週間は持ったかもしれないが、今は危険も少なく、弱い所の捕手も呑気にしていたものだから持ちが悪い。  下手をすれば明日にも弱いヶ所は崩壊するかも知れない。  此方の魔物や獣、動物達はヶ所を守る兵士が抑えてくれる筈であるから、多少は踏んばれるであろう。だが、問題は他所の国からの侵入者である。  バリアが消えれば、幻の国は姿を表してしまう。  他国からの侵入で均等が崩れてしまう恐れがある。  下手をすれば世界大戦に発展しかねない。  だが目下の問題は自分にかけた魔法である。  魔力阻害をされてしまった今、リミットはあと四時間と言うところである。  黒の王国の魔力によって姿を変えられた為、その黒の王国から出て、此方へ来ている漆黒の容姿は錫の姿に固定出来ているかも知れないが、少なくとも褐色の肌は普段の色に戻ってしまう。  あーー、どうしたら良いんだ。  漆黒にも打開策は全く浮かばず、兵士達に無理矢理牢屋に連れ込まれると、監禁れてしまうのだった。  黒の王国の王が投獄されてしまうなんて、前代未聞である。  もうこのまま勝手に黒の王国の王を解雇して貰って自動的に他の前王の産んだ子供に権利が以降してくれないだろうか。  なんて、現実逃避な他力本願しか出来ない漆黒であった。

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