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第35話
裏柳が異変に気づいたのは夕食も終えた後である。
今日は何やら立て込んでると羊が言うので、夕食も一人で済ませてしまった。
それにしたって夕食にも顔を見せないのはやはりおかしいのでは無いか。
そう思った裏柳は食事を下げに来たワニを捕まえて問いただす事にした。
「漆黒は夕食も食べずに仕事をしているんですか?」
「は、はい……」
頷くワニだが目が泳いでおり、やはりどこかソワソワして不安げである。
漆黒の側近である3匹の中でもやはりワニは一番顔に出やすい。
やはり漆黒に何か有った様だ。
「漆黒に何か有ったんですね! 何があったんですか!!」
そう、強く問い詰めると、ワニは涙目にってしまう。
「それは、その、言えません!!」
「あ、こら!!」
ワニは異変に気づいて入って来たらしい羊の後ろに隠れてしまう。
羊はヤレヤレと言う顔をしていた。
「裏柳様、ワニを泣かせるのは止めてあげて下さい。ほら、貴方はさっさと食器を下げなさい」
ワニを外に出してやる羊。
裏柳もワニを泣かせるつもりは無かったのだが、申し訳ない事をしてしまった。
「漆黒に何が有ったんですか?」
そう羊にたずねる。
「ちょとトラブルです。今、虎に様子を見に行かせていますが…… 不味い事になりました」
羊は深く溜め息を吐いた。
「あの方は歴代にも稀に見る温厚さと優しさで我々との絆を深め、民からの人望も熱いお方ですが、歴代にも稀に見るおドジさんで困ります」
そう頭を押えてしまう。
「何か事件に巻き込まれたのですか?」
裏柳は心配で堪らない。
漆黒の少しおドジな所は可愛い所で有るが、何か重大な局面でおドジを発揮する事などそうそう無く、いつも冷静だと言うのに。一体どうしたと言うのだろうか。
「今は虎からの報告待ちです。何も無く無事なら良いのですが…… 兎に角今日はもうお休みになってください」
羊はそれだけ告げ、部屋を出ていってしまった。
今日は休めと言われても、眠れそうにない。
それでも朝に漆黒が戻って来た時、美味しい小水が無いと悲しむかも知れない。
朝の採れたて裏柳の小水が漆黒のエネルギー源である。
裏柳はお風呂に入ると、明日も美味しく出せる様にと水を飲んでからベッドに向かうのであった。
漆黒の大きなベッドで一人で眠るのは初めてだ。
「目が覚めたら漆黒が帰ってますように」
そう小声で祈ってから、裏柳は瞳を閉じる。
牢に閉じ込められてしまった漆黒はどうにか逃げ出せないかと思案していた。
だが、どうにも妙案が浮かばない。
Ωを拉致しに来て捕まる等、黒の王国の王として有り得ない失態である。
少しでも状況を外に知らせられないかと、あれこれ牢を探ってみたり、念じてみたりしたが、どうにもならない。
漆黒は足を抱えるしかなかった。
「飯だぞ」
そう差し出された食べ物は雑炊である。
貧弱させてから拷問にでもかけるつもりなのかも知れない。
「あんた綺麗だな。服を脱いで尻でも出せば飯を増やしてやるぜ。気に入ったら外に出してやらなくも無いかもな」
下品に笑う牢屋番。どうせ出してくれる訳も無い癖に。
たとえ出してくれるとして、そんな事をするぐらいなら舌を噛み切ってやる。
漆黒は男を睨み、唾を飛ばす。
牢屋番はブチギレ、何か酷い侮辱的な事を投げかけつつ姿を消した。
残された雑炊。
こんな物でも食べないよりはマシだろう。漆黒はそう思って料理に口を付ける。
うむ。
何か変わった味がする。
自白剤か、毒物か、何かは解らなかったが、自分に作用するような薬とも思えずそのまま口にする漆黒。
薬の耐性ならある程度ついている。
漆黒は、食べ終えた食器を割り、手首に傷を付けると破片を隙間から外に投げた。
恐らく虎が偵察に来てくれるだろう。
匂でこの場所に閉じ込められていると気付いてくれたら良いのだが……
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