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第43話

 秘密通路を行く裏柳は、何とか追手を巻いたが出るに出られなくなってしまっていた。  出口を張られてしまったのだ。  出ようとすると追いかけられる。  秘密通路の中は裏柳しか知らない道等もあり、迷路の様に入組んでいる為に追手も深追いして来ないのであるが……  旧式の既に忘れ去られた出口が有るには有るが、森には遠すぎる。  全裸でシーツだけを羽織った姿ではとても出れそうにない。  どうしよう……  裏柳は八方塞がりになってしまっていた。  もう、森に一番近い出口を出て張ってる奴を振切る荒業に出るしか手が無さそうだ。 「離せ!! 虎!!」 「ガルルルーー」  漆黒を咥えて走る虎、漆黒が抵抗するが虎は離さずに森を走り抜けていた。 「いくらお前でも時間がかかり過ぎる。瞬間移動して裏柳の場所へ向かう!」 「ガルルル?」  虎は興奮し過ぎているのか、動物の言葉しか出てこない様である。  それでも漆黒の言葉は理解した様で、口を離してくれた。 「やはり裏柳が心配だ。胸騒ぎがするんだ」  何だか落ち着かない。  裏柳が泣いている気がする。  ただ自分がそう思いたいだけなのかも知れないが……  裏柳が他の男に抱かれるのが嫌なだけなのかも知れない。  それでも心配なのだ。  もう綺麗事等言ってられない。 「俺はやっぱり裏柳が好きだ。愛している諦める事など出来るものか!」 「それでこそ我が王です!!」 「瞬間移動する!」  漆黒は裏柳をイメージし、念じる。  次の瞬間には手が触れていた。 「え、あ…」  今にも無理な荒業に打って出ようとしていた裏柳の手を誰かが掴んだ。  見るとあの般若の男である。 「助けに来てくれたんですね!」  裏柳は思わず男に抱きついていた。 「う、裏柳!! 大丈夫か!? どうしたんだそんな格好で! ここは何処なんだ!?」  見れば裏柳は裸にシーツを纏っただけの姿で暗い通路に身を隠している様であった。  発情し、息を上げている。体も怠そうだと言うのにこんな所で裏柳は何をしているんだ。 「初夜を逃げ出して来てしまったんです」 「発情しているのにか!?」  Ωが発情し、目の前にαが居たら孕ませて欲しくなるものなのだが…… 「私は出来損ないですので……」 「そうか、俺と一緒に来てくれるか?」 「私を連れて行って下さい」  裏柳は出来損ないでは無いと思うが、兎に角、何を言うより先に此処から連れ出し、体を休めさせなければならない。  裏柳は涙目で懇願してくる。  思わずドキッとしてしまうが、裏柳は敬語を使っている。  自分を思い出してくれた訳では無さそうだ。  兎に角、ここから逃して欲しいだけであろう。  どうやら秘密通路に逃げ込んだは良いが、出口を張られてしまい、出られなくなってしまっていた様だ。  漆黒は直ぐに城へと瞬間移動し、裏柳をベッドに寝かせる。 「あの、此処は? 貴方は誰なんですか?」  裏柳は混乱した様子で漆黒を見詰める。 「今は何も聞かずに寝てしまう事だ」  漆黒は不安であろう裏柳から体を離した。こんな般若のお面を付けた男は怖いだろう。  ベッドから離れようとする漆黒だったが、服を掴まれ、振り向く。 「体が熱くて寝られません…… あの、私と子作りしてくれませんか?」  赤面した裏柳が上目遣いで見つめている。 「……本当に裏柳か?」 「私は裏柳です」  嘘だろ。裏柳ってこんなに大胆でエッチな子だっただろうか。 「幼馴染とは嫌で逃げ出して来たと言うのに俺とは良いのか?」  見ず知らずのこんな怖い顔した奴だぞ?  発情したΩでも悲鳴を上げて逃げ出しそうなものだが。 「何故か解らないけど、貴方となら良いと思うんです。貴方に番にして欲しい…… これが御伽噺に聞く、運命の番と言うやつなのでしょうか?」  うっとりした様子で此方を見詰めている裏柳。 「違うだろうな……」  運命の番等と言うのは御伽噺の中だけのもの。赤い糸みたいな話である。  意外とロマンチストの裏柳が好きそうな話では有るが…… 「……ごめんなさい、こんな出来損ないのΩの相手なんて嫌ですよね…… 助けてくれて有難う御座いました。ごめんなさい」  ポロポロと泣き出してしまう裏柳。  発情し、感情のコントロールが出来ていないようである。 「裏柳……」  発情中で苦しそうな裏柳。  このままでは熱を持て余し、辛いままである。 「自慰はした事あるのか?」 「解らないんです」 「したこと無いんだな……」  男として大丈夫なのか心配になるが、清廉潔白としている裏柳らしいと言えばらしい。 「少し、手伝うだけだ」  このままにしておくのは可哀想だ。  漆黒はそっと、裏柳が包まっているシーツを剥がすと、フェラしてやろうと仮面を取った。   仮面をしたままでもやれない事はないが、牙が鋭く当たってしまう恐れが有り、危険だと思ったのだ。 「わぁ、お顔、凄く綺麗なんですね……」 「お褒め頂き光栄ですよ姫」  顔を褒めくれる裏柳に、微笑みかける。  何故こんな言い回しをしたのか解らないが、御伽噺好きの裏柳に合わせてあげたかったのかも知れない。 「ウウッ……」  裏柳の可愛らしい陰茎を口に含む。  裏柳は喘ぎ声とも言えない苦痛の様な声を出した。 「アっ、ヤです。そんな事しないでください……」  「フェラはお気に召しませんか?」 「その口調ヤ……」 「おや、口調もお気に召しませんか?」 「もっと乱暴なのが良いです……」 「淫乱」  フフッと笑って意地悪な事を言ってやる。 「初めてなので淫乱では有りませんと、思います……」  なんて顔を赤くする裏柳。変な言葉遣いになってしまっているのが可愛かった。  初めてだと思っているらしいが、すまないが初めてじゃない。  だが淫乱でもないな。 「ほら、イケよ」  そう、乱暴な口調で裏柳の耳元で囁やき、手で扱いてやる。 「ヴァッ…… キモチイイ 声、好き!」 「声だけか?」 「アァ……出ちゃう!!」  「出せ」   「ウワァァァンんんん~」  裏柳は、鳴き声混じりに達した。  ハァハァと、荒息使いで此方を見る。 「顔も好き……」  と、呟いた。 「嬉しいな」  顔も声も、裏柳のお好みだったらしい。知らなかった。  少し落ち着いた様子の裏柳を、もう一度ベッドに寝かせる。  今度こそ寝てくれるだろう。 「あの……」 「どうした? まだ何かあんのか?」  落ち着いた様子であるが、まだ子作りしたいのだろうか。  もう一度誘われると断われきれないかも知れない。  自分を忘れている裏柳にΩの本能で誘われて抱くのは虚しくて悲しくなりそうで嫌なのだが……  「怖いので、手を繋いでて下さい」 「いや、そっちの方が怖いだろ」  落ち着いたと言ってもまだ発情は続いている。そんな中、見知らぬαに手を繋がれていた方がヤバそうなんだが。 「私と子作りする気になってくれたら何時でも犯して下さいね」 「っ……」  本当に裏柳?  裏柳ってこんな事言う子だった??  自分の中の裏柳ゲシュタルト崩壊しそうだ。 「……握った手を離さないで下さい」  裏柳はそう呟くと、スッと瞳を閉じた。  眠りに落ちてくれた様だ。  眠ってくれて良かったが……  裏柳が手を強く掴んでいて離してくれそうにない。  困った……  これでも一応我慢しているのだ。  好きなΩが発情していて平気でいられるαが居る訳がない。  今にも襲ってしまいそうである。  我慢しろ俺!!  漆黒には地獄の時間であった。  その頃、虎 「漆黒様は、裏柳様を無事に助け出せただろうか」  漆黒に忘れられ、森に置き去りにされてしまった為に一人で城に戻っていた。  どうやら魔力がギリギリで、自分を連れての瞬間移動は出来なかったらしい。  置いてけぼりを食らった虎であるが、健気に二人の事を心配しているのだった。

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