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第45話

 瞬間移動で連れてこられた裏柳はビックリする。  さっきまで別の部屋に居たと言うのに、手を繋がれたと思ったら豪華な料理の乗ったテーブルの前である。  それに三匹の魔物が大人しく座っていて、更に驚く。魔物なんて初めて見た。獣や獰猛な動物が数年に一回襲って来る事は有るが、魔物は滅多に見ない。殆ど伝説の生き物だ。もしかして人魚も居るだろうか。  なんだがドキドキワクワクする。 「裏柳様! よくご無事で」 「ウギャア! 食べないでください!!」  流石にいきなり虎に飛び付かれ、裏柳は『食べられる!』と、恐怖を覚えて縮こまる。  もしや、沢山食べさせられた後に彼らの餌にされてしまうのだろうか。  そんな考えが頭をよぎってしまう。 「おやめなさい! 裏柳様は記憶が無いのですよ!」  裏柳に触れる前に、羊が虎を捕まえて動きを止めた。 「申し訳ありません裏柳様。俺は虎です。護衛です。食べたりしませんから怖がらないでください」  ハッとした虎。申し訳なくなり、裏柳から距離を取ると隅っこから挨拶し、縮こまってしまった。  その姿が可愛らしく見え、裏柳の恐怖心も消える。 「裏柳です。白の王国で王の側近をやっておりました。先日求婚されまして逃げて来てしまいましたが、そちらの方に助けて頂きまして、お邪魔させて頂いております」  丁寧に頭を下げる裏柳。  そこで漆黒はハッとなる。  まだ自分の自己紹介が済んでいなかった!  だが何と言えば良いのだろう。  既に自分達は結婚している事を伝えるべきだだろうか、混乱させてしまうだろうか…… 「私は羊です。王の執事をしております」 「僕はワニです。料理番です」 「漆黒だ。この国の王をしている」  羊とワニの自己紹介に便乗し、漆黒も簡単な自己紹介してしまう事にした。 「王様だったのですね。大変な失礼を……」 「構わない。結婚してくれ」  漆黒はもう一度、プロポーズする事にした。  黒の薔薇を出して裏柳に差し出す。 「あ、え? 先に連れて行かれたΩはどうされたんです?」  生産力の高いと言うと人権に関わりそうであるが、Ωとして優秀な女性を見極めて連れ去った様に見えたのだが……   裏柳は自分が出来損ないのΩだと知っている。  何故自分にプロポーズしてくれているのか解らない。  この国では多重婚なのだろうか、Ωは全員娶る文化でもあるのか? 白の王国では妾は取るが王妃は一人だけである。  自分はどう言う立ち位置になるのだろうか。ハーレムに入れてくれると言う事か?  いたせり尽くせり過ぎて逆に怖すぎる。 「ああ、あの者は俺を怖がってしまってな……」 「朝食も食べてくれません」  困った様子の漆黒に、ワニも困った様に溜め息を吐く。 「困ったな。後で朝食を持っていてやってくれないか?」  そう漆黒は裏柳に頼む。  裏柳てしてもそれは構わないが……  それにしても 「此処は何処なのですか? 漆黒様は白の王国からΩを連れ去っておられますが、何人拐かしたのですか?」  よく考えると誘拐は良くない。  白の王国ではΩは特産の様なもの、外交に重要であるのだ、勝手に連れ攫われるのは困る。  それに各国の王様や重要人物は全て頭にインプットしているつもりであったが、漆黒の事を裏柳は知らなかった。  もしや此処は…… 「ここは黒の王国だ」  漆黒の言葉に思わず距離を取り、守りの体制を取る。  やはりここは黒の王国。  黒の王国は幻の王国と言われる。まさか本当に有ったとは……  時々、獣や獰猛な動物を各国にけしかけ、国を乗っ取ろうとしている闇の王国。そこの王ともなれば魔王と言っても過言ではない。  こんな綺麗で、優しい彼がそんな邪悪なものとはとても思えないが、少なくとも白の王国から神隠ししているのは彼だろう。  そう言えば、自分も数日間、神隠しに合っていたと聞かされたが……  何か関係が有るのだろうか。 「拐かしたのは申し訳ない。これがこの国の伝統と言えど、見直さなければならないだろうと考えている。連れ去ったのはお前と彼女だけだ。彼女の方は怖がってしまっているし、国に返してやろうと思っているんだが……」 「王、それでは子供はどうなさるおつもりですか!」 「それは後で考える」 「後っていつですか!」  何とか裏柳の不安を解こうとする漆黒と将来を案じている羊で言い合いがはじまってしまった。 「話を整理させて下さい。漆黒様は王として跡継ぎを今すぐにでも作らなくてはならず、伝統に乗っ取りΩを連れ去って来たと言う訳ですね。彼女は白の王国でも1、2を争う有能なΩですので間違い無いかと思います。まだ若く、婚姻もして無いのできちんと白の王国に手紙の一つでも書いて下されば、私の顔に免じて何とかしてくれるとは思いますが……」  その代わり裏柳を返せとは言われそうである。 「それと、多重婚は我が国では認められていないので、白の王国で王と婚姻してしまいました私は離婚でもしない限りは漆黒様との結婚は出来ないのです…… ごめんなさい」  裏柳には漆黒の薔薇を受け取る資格が無いのである。  裏柳は申し訳なく思いながら漆黒の薔薇を断った。 「そうか…… だが、裏柳。俺達もう結婚してるんだ」 「なんですって?」 「混乱させると思って言えなかったんだが……」  漆黒は仕方なく、以前に書いた署名を裏柳に見せる。  書類を出され、裏柳は驚いた。  確かに自分の字である。日付も白亜と婚姻する前の物…… 「どうしよう……」  記憶に無いが、漆黒と結婚していたにも関わらず白亜と婚姻してしまった。  これは重罪である。 「鞭打ちの上、晒し者にされる……」  不貞な淫乱Ωとしてスキモノに輪姦される。 「落ち着け裏柳。記憶に無かったのだから仕方ない。説明すると長くなる。取り敢えず朝飯を食べよう」  朝食を目の前に、一口も食べていなかった事に気づく。  漆黒に食事をすすめられるが、申し訳ないが裏柳にはとてもじゃないが食欲がなく、食べられそうになかった。  

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