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第49話
黒の王国の端、海までやって来た漆黒。
海は、海で護る者が別にいる。陸は漆黒が護が、海の中の領土は人魚の長が守っいるのだ。なので海の事は漆黒とて門外漢である。未知の世界過ぎで入るのが怖い。
いや、でもここは裏柳と俺の為に怖がってる場合では無いだろう!
海の魔物にも知り合いは居る。
魚介類を届けてくれるカモメだ。
先ずはカモメに話を通すか。
「カモメー俺だ! 漆黒だ!!」
「漆黒様!!??」
漆黒の声に気づいたカモメが飛んできてくれる。
「人魚の長と話がしたい」
「え!? 人魚の長ですか!? あの気難しいと聞いています」
「知っている。変人だと言う噂だな」
オロオロした様子のカモメに溜め息を吐く漆黒。まぁ、魔物達の中では漆黒も相当な変り者と噂になっている事は秘密にするカモメ。
変り者の部類が違う。
漆黒は歴代の中でも稀に見る信頼の厚さだが、人魚の長はもう何を考えてるか解らない系統の変人である。
「私は鳥なので海の中の事は…… 亀を呼びますね」
どちらにしろ海の事は自分も亀に聞いているだけである。
カモメは亀を呼びに向う。
漆黒が少し待っていると、カモメは亀を連れて戻ってきた。
大きな海亀だ。カメ族の長だろう。
「人魚の長に会いたいと?」
そう、海亀の長に問われ、頷く漆黒。
「貴方は陸の王だそうだが、海の中では此方の長の方が偉い事を忘れないで頂きたい。目上の者に会うと言うのに手ぶらでは無かろうな」
「うっ……」
手ぶらで来てしまった。
「すまない。海の王が何を欲するのか検討もつかなかった。何が良いだろう。宝石か?」
「宝石だと? 海には珊瑚も真珠も有るのだぞ。宝石なんぞゴロゴロしているわ」
フハハハと笑う亀。
ゴロゴロはしてないと思うが、困ったな。
本当に何が欲しいのか解らない。
此方は魚等を貰っているが、よく考えたら向こうから何かを強請られた事は無かった。
何も考えて無かったが、海の長はお怒りなのかもしれない。
何もくれない癖に、困った時ばかり頼って来やがってと、ブチ切れてるのかも知れん。
これで海を荒らされたら大変な事だ。
「すまない。私が無知だった。頼む。教えてくれ」
天変地異でもおこされたらたまったものでは無いと、膝をつく漆黒。
「王! 亀!! この野郎!!」
カモメは何方かと言えば地上の者なので、自分の王様を虐められている様だと憤慨し、亀をつっつく。
「カモメ、やめろ!」
陸と海で戦争にでもなったら此方に分が悪すぎる。そうでなくても戦いに発展する事は避けたかった。平和が一番である。
「はい……」
カモメは漆黒に怒られ、シュンとして近く岩に止まる。
後で何かフォローしてあげよう。カモメは良い奴だ。
「海へ捧げる物なら昔から決まっているだろう。長はあれが好きだ」
「あれとは?」
海に捧げる物?
まさか生贄か?
人間を海に沈めろと言うのか!!
いくら何でも生贄なんか捧げられるか!!
「人間を捧げろと言うか!!」
思わず凄い形相で怒ってしまう漆黒。
お前の嫁を寄越せと言われそうで虫唾が走った。
赤の他人だとしても生贄なんて認められない。
「何か勘違いをしている様だが、そんなものじゃない。確かに我が王は人間を愛しているが、海に人間が落ちてきたら自ら助ける程だ。変な誤解はやめろ。花だ花。我が長は花がお好きなのだ」
「は、花……」
カメの言葉にホッとする漆黒。腰が抜けてしまった。
紛らわしい言い方は止めてほしい。
「解った。花だな。我が庭園の花を束ねて来るとしよう。約束を取り付けてくれるか? 突然来てしまったからな。海の王にも予定が有るだろう。日取りを改める」
「了解した。王から返事だ。今晩でも構わないそうだ。明日は我が王の誕生日、夜から盛大な宴が開かれる。どうせなら祝に来い」
「……承った」
海では超音波で知らせているのか、直ぐ返事が返ってきたので、漆黒は頷くと、一旦、帰る事にする。
それにしても明日が誕生日だったとは、何も知らなかった。運命的なタイミングである。それにしたって誕生日前日に突然何も知らずに、しかも手ぶらで来たのだ。海亀が怒るのは当たり前である。長にも罵詈雑言を浴びせられるかも知れないな。何しろ海からは誕生日に豪勢な魚介類が届いているのだ。今まで何も海から求められなかったが、考えずに居た事が申し訳なくなる。これからは定期的にカモメに花を持たせよう。
それにしても海の長は変人だと言うから会うのに気が進まなかったが、花が好きだと言うのだから悪い人では無さそうだ。
花好きに悪い人は居ないと言うからな。
漆黒は少しだけ肩の荷が降りた様だった。
カモメも連れて一旦城に戻る。
カモメにはお礼に夕食をご馳走しよう。
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