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第51話

 海岸に着くと、砂浜に亀が迎えに来ていた。 「此処から先は私がご案内します。さぁ、私の背中にしがみついていて下さい」  そう言われ、漆黒は亀に跨がると甲羅にしがみつく。 「漆黒様、お気をつけて〜」  カモメが心配そうな顔をしつつ、見送ってくれた。  亀は漆黒が乗った事を確かめると凄い勢いで海に入り、どんどん底を目指す。  漆黒は魔法で自分の体を取囲み、濡れない様にしつつ、息が出来る様な魔法も使う。  海の中は生態系が違い過ぎる為、多岐にわたる魔法を同時に発動する必要があり、恐らく青の国の者でも海の中でまで潜れる者は数える程度居るか居ないかだ、漆黒であっても海の中に居るのは十時間程度が限度である。  それにしても、この亀は飛ばし屋なのか、凄いスピードで急降下していく。  追手がつくのを防いでいるのか、肉食である鮫などを恐れてか、本当に振り落とされそうで、漆黒は必死に亀にしがみつくのであった。  ものの数分で海の都へとたどり着く。  綺麗な魚達が出迎えてくれた。  長の住む城へ通される。 「よく来て下さいました。初めまして、海を護る人魚です」   王である人魚が頭を下げる。  まるで歌うかの様に言う人魚の声は本当に綺麗で聞き惚れてしまう。  思わずボーっとしてしまい、慌てて此方も頭を下げた。 「挨拶が遅れまして申し訳ない。地上を護る王の漆黒と申します」 「私は、マーメイと申します。メイで良いですよ」  フフッと笑うメイはまるで女の子の様な可愛らしさである。  雄なので上半身は隠す事なく曝け出されているが、何だかを見てはいけないものな気がして居た堪れない。 「明日はお誕生日だと聞きまして、これをよかったら……」 「有難うございます。素敵な花束ですね。青い薔薇なんて、私、初めて見ました。おや、メッセージカードまで。嬉しいです」  花束を受け取り、喜んで見せるメイ。  人魚の長は気難しい変人だと聞いたが、どうやら噂はガセだったらしい。  ただの天真爛漫な幼女に見える。  年齢は千越え超えしてるだろうが…… 「して? 私に聞きたい事とは何です?」  メイは、パーティー会場から個室に移り、漆黒の話を聞いてくれる。 「その、私は妻を愛しているのですが、子供が出来たら国に送り返さなければいけませんし、記憶を失ってしまう事が怖いのです。それに二度と会えなくなってしまうのも…… 何か良い方法を貴方なら知っているかも知れないと思いまして」 「なる程、それはお困りでしょう。もう子供もお作りになられて。3週間というところでしょうか?」 「は?」  まてまて、何と??  どういう事だ??  漆黒はメイの言葉に頭が真っ白になってしまう。 「裏柳は妊娠しているのですか?」  まさか白亜に孕まされたのか!?  いや、そんな筈はない。Ωの妊娠期間は母体の影響で6ヶ月と短く、早産であるが……  まさか白亜に…… 「おや、気づいていませんでしたか? まぁまぁ無理も無いでしょう。鳥に変身させて少し遊んだ様ですね。その時です」 「え?? ですが、その時裏柳は鳥でしたし、私はこの姿でした。それに沢山無精卵を産みましたが、無精卵でした。食べました」  人魚は占いが得意であり、何でも見えると聞いていたが、凄いと思いつつ、漆黒は頭が混乱して上手く話せない。  だが、確かにあの時鹿にもちゃんと見せたが何の問題も無いと言っていた。 「卵は無精卵でも、ちゃんと人間に戻っ時に着床した様ですね」 「そんな事って……」 「そうですね。凄い奇跡が起きたとしか言いようが有りませんね」  ニコリと笑って見せるメイだが、漆黒の頭は混乱しまくりである。  兎に角、戻ったら鹿をしばく。 「あの、裏柳を国に戻さないとどうなるのでしょう。産まれ来る子供を黒の王国で裏柳と育ててはいけないのでしょうか?」 「そうですね。黒の王国には呪いがかけられていますので、子供は育たないでしょう。貴方の血を引き継いで居たとしても少なくとも十歳以上まで成長しない事にはどうにもなりません」  なる程、理由は知らなったが育たないから白の王国に送り返すしか無かったのか。 「もしや、気付かずそのままにしていましたから、裏柳の胎児に何か呪いの影響が……」  ふと、心配になる漆黒。そうなると、もう取り返しがつかない。 「それは大丈夫です。胎児の間は母親が守ってくれるので、ですが産まれた瞬間に死にます」 「死ぬのは困る!!!」  今のうちは大丈夫だと解り、一先ずは安心であるが、本当に一先ずでしかない。 「では今のうちに送り返すしか有りませんね。十歳になったら迎えに行けますよ」 「そんな……」  子供が十歳になるまで離れ離れだなんて。しかも送り返すとなると裏柳は記憶を無くしてしまう。  迎えに行ったらまた怖がられるのか……  そんなの辛すぎる。  怖がられるのはまだ良いとして、十年も何もかも忘れてしまった漆黒が独り身でいるとも思えない。  白亜に娶られる可能性の方が大きい。  そんなのは嫌だ。 「そうですねぇ、私からすすめられる他の方法はこの人魚特製の秘薬です。この薬を飲むと、声は枯れ、足は動かなくなりますが、その代わり望みが一つだけ叶います。子供が死なぬ様に願えば良いのです。そうしたら裏柳様とずっと一緒に居られますよ」  メイは小瓶に入った薬を取り出し、歌声の様な綺麗な声で、甘言の様に漆黒の耳元で囁く。  その薬が凄く欲しいと感じた。  自分の声も足も要らない。それと引き換えに裏柳と幸せな未来が待っているのなら、喉から手が出る程欲しいと感じた。 「……どうしたら頂けますか?」 「今夜、私の誕生日をお祝い来て頂きたいお礼です」  メイは笑顔で漆黒に薬を手渡すのだった。 「ここで飲んでいかれますか?」  メイは飲みやすいようにとワインを差し出す。 「飲めば声は枯れ、歩けなくなってしまうんですよね?」 「ええ、そうです。怖くなりましたか?」 「いいえ、ただ。最後に裏柳に何か言ってからと思いまして……」 「そうですか。どうぞお持ち帰り下さい。ただ使用期限は一日だけですのでお早めにお飲みくださいね」 「解りました。有難うございます」 「いえ、同じ世界を護者、仲良くしたいと思います。またいつでも遊びに来てくださいね」 「はい」  漆黒はメイを良い人だぁと思いハグをすると、薬品を貰って別れる。  帰りも亀が送り届けてくれた。

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