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「ちょっと待ってて」 「えー」と名残惜しそうにする彼を置いて一度リビングに戻り、キッチンに立つ。  僕も彼もそれなりに料理をする方なので、幅をだいぶ広めにとってあり、調味料やオーブン、食洗器まで完備のなかなか立派なしつらえをしている。  と言ってもいま用があるのはカウンターに置いていた小柄な電子ケトルと、マグカップふたつだけで。  ささっと準備して彼の仕事部屋に戻ると、赤毛が相変わらず机の上で突っ伏していた。 「アレックス」 「理、俺はもうだめだ、作家生命悪運ここに尽きる」 「何を言ってるんだ」  ぎぎぎと首だけ振り向いた彼は、僕の両手に握られたカップを見てぱっと笑顔を輝かせた。二十歳若返った。いや、冗談じゃなく。 「それ、もしかして」  アレックスに耳と尻尾がついて、それが元気よく振られているような幻覚を見ながら、僕はこくりと頷いた。 「きみが大好きなやつだよ」  そう言って、左手に持っていた方のカップを差し出す。  赤い陶器製のそれから、もくもくと立ち昇る湯気。ゆらゆらとゆれる、彼の髪色に似た液体。

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