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2.小さな神様2

 そして、次の日。  生活に限界が見え始めたが、いつも通りに学校へ行く。授業は最後まで受けたが、それ以上は何もする気が起きず、授業終了の鐘とともに教室を出た。  家に帰っても何もないが、自分の家はあの家しか無い。帰らない訳にはいかない。  寒さと空腹のせいで昨日はほとんど眠れなかった。昨日のようなことがこれから毎日続くと思うとため息しか無い。  とぼとぼと下を向き学校から家までの帰り道を歩いていると、小さな財布が落ちていた。何の変哲もない、子供が持つような首からさげるための紐が付いていて、マジックテープで開け閉めするタイプの物だ。  ここの道は小学生もよく通る。きっと落としてしまったのだろう。持ち主の手がかりになるようなものは入っていないかと、中身を確認する。 「……え?」  七海は目を見開いた。  バリバリと音を立てて開くと、中に入っていたのはキラキラしたトレーディングカードと、『なかじょう せいたろう』と平仮名で書いてあるメモ紙、そして1万円札が10枚ほど。  どうして子供用の財布に大金が。すぐに怖くなって財布を閉じた。こんな大金、高校生の自分だって持ち歩いた事がない。  怖くなったと同時に、子供相手なら少し盗んでもバレないのではないか、と思ってしまった。全部でなくて良い。1枚でも、2枚でも。そしたらまた自分は生き延びることが出来る。飯が食える。空腹と睡眠不足で思考がおかしくなってしまっている。本当は盗むだなんて、考えてはいけない事なのに。  バリバリと音を立てて再び財布を開く。そして札を掴んで引き抜こうとした、その時。 「おい、そこのおまえ!」  どきり、心臓が跳ねた。口から心臓が飛び出してしまったのではないかというくらい驚いた。  財布を閉じて、甲高い声がした方を急いで振り向いた。しかし、そこには誰もいない。 「おい、おまえ! きいているのか?!」  視線を下に向けると、そこにはランドセルを背負った少年が、腕を組んで仁王立ちしていた。  小さいが偉そうな話し方をするその少年は、七海が持っていた財布を指さした。

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