5 / 170

2.小さな神様3

「それ、おれのサイフだ!」 「……これ?」 「そうだ! なかじょうせいたろうってかいてあるだろう?!」  確かに名前が書いてあったが、これが本当にこの小学生の物なのか確かめる術はない。こんなに幼い子が嘘をつくとも思えない。七海はしゃがんで彼に目線を合わせて、大金の入った財布を渡してやった。  少年は財布を受け取ると嬉しそうに笑った。 「……はあー、よかったあー。失くしてしまって、こまっていたんだ」    安心した様子で胸を撫で下ろしていた。あんなに大金が入っている財布なのだから、失くして焦るのは当たり前だ。 「このカード、ちょうレアなヤツなんだ! もう手にはいらないかもしれない」  彼が心配していたのは現金ではなく、キラキラしたトレーディングカードの方だったらしい。なんだか拍子抜けした。 「たすかった! ありがとう!」 「はあ……どういたしまして」  キラキラとした笑顔で例を言われると、少し心が痛む。本当は例を言われる資格なんてない。だって、その財布の中身を盗ろうとしたのだから。 「あ! わすれた!」 「……何を?」 「いいことをしてもらったら、ちゃんとおじぎをしないといけないんだ!」 「いいよ、そんな……」 「あと、ケイゴもわすれた! ありがとうございま……わっ!」  お辞儀をした勢いで、少年が背負っていたランドセルが開いて中身が飛び出した。バサバサと教科書やプリント類が地面に散らばる。 「ああっ、たいへんだ!」 「……手伝ってやるから、ランドセルこっちに向けて」 「うう……すまない……」  散らばってしまった荷物を拾い集め、ランドセルに入れてしっかりと閉める。これで今度は飛び出したりしないだろう。   「はい、これで大丈夫だろ」 「ありがとう。やさしいな、おまえ!」 「別にこのくらいは……あ」  しゃがみ込んで少年と話していると、腹の虫が割って入った。成長期なのに1日何も食べていないせいか、いつもに増して大きな音に感じた。 「はらがへっているのか?」  腹の音はしっかりと少年にも聴こえていたようだ。少し気恥ずかしくて視線を逸らして頷く。 「よし、こっちにこい!」 「えっ、ちょっと……!」  少年は七海の手を握って走り出した。といっても、彼の歩幅なんて大したことはない。七海が歩いて追いつける程度の速さ。もちろん、手を握った力も弱いので振り解こうと思えば簡単に振り解ける。  しかし、七海は手を振り解かず、黙って少年の後をついて行った。

ともだちにシェアしよう!