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2.小さな神様3
「……うぅっ、おい……! どうしたらっ、泣き止んで、くれるんだ?!」
下を向いて泣いていると、ぐずぐすと鼻を鳴らす音がした。はっとして顔を上げると、少年が大きな瞳に涙を溜めていた。ぐっと唇を噛み締め、泣くのをどうにか耐えているように見える。
「……っ、もう大丈夫。大丈夫だから」
「むっ、ほんとか? もういたくないのか?」
大丈夫だと言って頭を優しく撫でてやると、少年は溢れそうになっていた涙を拭って笑顔になった。
先ほど神に見えたこの少年は、やはり幼い子供だ。情けない姿を見せ過ぎてしまった。彼よりずっと大人である自分がいつまでもメソメソしていては駄目だ。これ以上迷惑はかけられない、と無理やり笑顔を作る。
「さて、そろそろ帰らないとな」
ベンチにから腰をあげ、ランドセルを背負い直す。気が付けばもう日が暮れて始めている。小学生はもう帰らなくてはならない時間だ。
自分とは違いいつまでもベンチに座ったままの七海を不思議に思ったのか、少年は首を傾げた。
「おまえは帰らないのか?」
「……ちょっと、家に帰りたくなくて」
どうせ帰っても待っているのは暗くて寒い部屋と冷たいシャワー。彼の温かい情を感じてしまった今、無機質で冷たい場所に帰るのは少し気が引けた。もう少し外をぶらついてから帰ろうと考えていた。
七海の返事を聞いた少年は、そうなのかと納得したように呟くと、七海に向かって手を伸ばした。
「帰りたくないなら、うちにきたらいい!」
「え……?」
「おまえといっしょにいて楽しかったから、もう少しいっしょにいたい。ダメか?」
彼の大きな瞳で見つめられると途端に言葉が出なくなる。
今日会ったばかりの素性の知れない少年に、付いていきたいと思っている。差し伸べてくれた手を取りたい。この子と一緒に行ってみたい。
ダメじゃない、とゆっくりと首を横に振って彼の手を取ると、キラキラと嬉しそうに笑った。
「なあ、ちょっとおねがいがあるんだが……」
手を繋ぎながら歩いていると、彼は先ほどまでの堂々とした態度から一変して、少し恥ずかしそうに制服の裾を引っ張った。なんだろう、と屈んで耳を寄せると、こそこそと小さな声でおねだりした。
そのお願いは、拍子抜けするほど簡単なものだった。七海は頷くと、軽々と少年を持ち上げる肩の上に乗せた。落ちてしまわないように、しっかりと足を押さえる。
「わあ……! 高い、すごい!」
彼のお願いは肩車だった。そんなに恥ずかしがるような事でも難しい事でも無いのに。キャッキャと肩の上ではしゃぐ姿は年相応で、とても可愛らしい。
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