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10.変化2
「ゆっくりでいいですよ。どうしてそう思ったのか聞かせてください。どこか体が辛いのですか?」
「ううん……辛くは、ない……」
「どこか痛みはありますか?」
「……痛くない」
徐々に落ち着きを取り戻した晴太郎が、七海の問いに答える。しかし、どの質問にも首を横に振るばかりで、これでは分からないなと七海は首を傾げる。
どうしようかと頭を悩ませていると、晴太郎がもじもじと恥ずかしそうに呟いた。
「その、パンツに……白いのが、付いてて……」
ああ、なるほど、と七海は納得した。晴太郎の成長について思い返してみると、1年ほど前から急激に身長が伸び始め、声変わりもした。しかし『それ』はまだだった。
「ちょっと失礼しますね」
「えっ……わあっ、七海っ?!」
ずるりと晴太郎の履いていたものを下ろすと、そこにはべっとりとした白濁液が付いていた。
「大丈夫です、これは病気ではありません」
「えっ?! そうなのか?」
「はい。坊ちゃんが立派な大人の男性になった証拠です」
晴太郎は比較的成長が遅く、性についての関心が無い方だとは思っていたが、まさかここまでとは。学校の性教育は一体どうなっているのだと、七海は内心ため息をついた。
「大人……七海も、出したことあるのか?」
「え、まあ……ありますよ。大人なので、当たり前です」
当たり前のことだが、改めてそう聞かれると少し照れる。
「なんだ、七海もか……そっかあ……良かったあー……」
晴太郎は安心したようで、大きく息を吐いた。いつの間にか涙は引っ込んでしまったようだ。病気じゃ無くて良かったと七海も安心した。
「学校行けますか?」
「うん!」
いつもの元気な晴太郎に戻った。急がないと遅刻する、と言ってバタバタと準備を始める。七海も弁当がまだ未完成だったと急いでキッチンへ戻った。
ここ数年の晴太郎の成長は目紛しい。つい最近まで小さかった少年が、メキメキと背を伸ばして大人になろうとしている。今のように身体の変化に気持ちが追いつかなくて困惑している時もあるようだが、それも含めて成長したなあと七海はしみじみ思う。
自分は彼の親ではないが、この成長を喜ぶ親の気持ちが今なら分かる気がする。
その日は何事もなく過ぎていったが、その数日後、再び晴太郎が困惑する出来事が起こる。
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