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10.変化3
「七海……ちょっと、いいか?」
「はい、どうしました?」
ある日の夜の事。もう日付が変わろうとしている頃、ひとりリビングでテレビを見ていた七海の元に先に就寝したはずの晴太郎がやって来た。
何だか元気がなくて様子がおかしい。どうしたのだろうか。
隣に座るように言って、とりあえず話を聞いてみることにする。
「何か悩みごとですか?」
「その……寝れなくて……俺、やっぱり病気なのかな……」
困った顔をして俯いてしまう晴太郎。不安な事は先日解消したはずなのに、また晴太郎は病気を疑っている。きっとまた似た様な事だと七海は思っているが、今回は何があったのだろうか。
「寝ようとする前から、身体が熱って……っ、なんか……変なんだ」
晴太郎が何を言ってるか全くわからない。七海は困ったなと首を傾げた。何か恥ずかしがっているような気もするので無理やり言わせるのも可哀想だ。熱っていると言っているが、特に熱は無さそうだし風邪の症状も見当たらない。
じっと晴太郎の体がを見ていると、ふいに晴太郎が足の付け根あたりを隠すように、自身の上着の裾を引っ張った。今まで気付かなかったが、姿勢が少し前屈みで、女の子のように脚を閉じて座っていた。
これはたぶん勃起だ、と七海は思った。晴太郎は戸惑っているが大したことではない。本当に病気ではなくて良かったと七海は胸を撫で下ろす。
「大丈夫です、坊ちゃん。病気じゃないです」
「えっ、そうなのか?」
「はい、これも坊ちゃんが大人になった証拠です」
「これも大人の……なんだ、よかったあー」
安心した様子で、晴太郎が大きく息を吐いた。最近このような事ばかりで、晴太郎の成長をひしひしと感じる。
「じゃあ七海、これはどうやったら治るんだ?」
「治る……? 放っておくか、抜くかしたらすぐ治りますよ」
「ぬく……? なんだそれは。どうやるんだ?」
驚いた。知らないようだ。主人の性的知識量が乏しくて心配になる。それと同時に、確かにそういった事を教えた事が無かったなと思った。
「分からないのであれば、放っておいた方が……」
「だって……身体が、辛い……なあ、お願いだ。教えてくれ……!」
眉尻を下げ、うるうると潤んだ瞳でお願いする晴太郎。七海は晴太郎のおねだりにはめっぽう弱い。何でも言う事を聞いてあげたくなってしまうのだ。
「…………わかりました。部屋へ行きましょう」
「部屋? ここじゃ駄目なのか?」
「……普通は、ひとりで部屋でこっそりやるものなのです」
「そ、そうか……?」
晴太郎がこんなにも純粋に育ってしまったのは、教育係のくせに性教育を怠ってしまった自分の責任だと、七海は頭を抱えた。
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