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10.変化8
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ピピッ、ピピッ……
控えめな目覚まし時計の音で目を覚ました。5時30分。いつもの時間、いつもの部屋、平日のいつもの朝。
いつもと違うのは、隣で晴太郎が眠っていること。
目覚ましが鳴ったのに目覚める気配は全く無く、すやすやと気持ち良さそうに眠っている。七海が普段寝ている1人用の布団は2人が一緒に寝るには狭すぎる。気付けば自分の身体は半分ほどゆかにはみ出していた。
昨晩は、何も話さなかった。
ただ少し触れて、キスをした。それだけ。それだけの事なのに、七海に重くのしかかる。悪い事をしてしまった、では済まないことだ。
こんな事が他の中条家の人に知れたらどうなってしまうのだろうか。自分はもしかしたら、晴太郎の前に居ることが出来なくなってしまうかもしれない。それはきっと晴太郎も知っている。だから、今まで敢えて言葉にしないのだ。必死に自分の気持ちを隠そうとしていたのだ。
それが出来なかったのが、昨日の事。
晴太郎は戻れなくても、自分は"ただの従者の七海"に戻らなければない。"いつもの七海"に戻るのだ。いつものように朝食と弁当を作って、7時になったら晴太郎を起こして、最寄り駅まで車で送って、それからーー。心を殺してでも戻らなければ、ずっと彼の傍にいる事が許されなくなる。
静かに眠る晴太郎の髪を静かに撫でる。くすぐったいのか少し身動ぐ。あどけない寝顔が可愛らしくて、心がじんわりと温かくなる。
2人しか知らないなら、2人で黙っていれば良い。
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