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11.家族の集まり1
「坊ちゃん、少しよろしいでしょうか。入りますよ」
コンコン、と強めにノックをしても応答がない。晴太郎は大抵こういう時は寝てしまっている。いくら休日とはいえ、夕方に寝てしまうのは良くない。七海はガチャリと晴太郎の部屋のドアを開ける。
「…………ん? 七海、どうした?」
晴太郎は起きていた。頭に大きなヘッドフォンを着けていて、ヘッドフォンはギターアンプに繋がっている。そして、ベッドに座っている彼の膝の上にはエレキギター。この状態ならば返事がないのも納得できる。
七海が来たことに気付いて、晴太郎は頭からヘッドフォンを取った。ギターの他にベースも弾いたのか、普段はしっかり立て掛けてあるのに、床に転がっている。
「ギター、弾いていたのですか?」
「うん。何か、軽音部の3年生を送るための発表会があるらしくて。手伝ってくれって頼まれたんだ」
2月の下旬。学生は卒業の準備やら追いコンの準備で忙しい季節だ。
晴太郎が言うには、軽音部の活動に卒業生の追いコンのようなものがあるらしい。それの手伝いを頼まれたので練習していたようだ。
晴太郎がそういったことを頼まれるのも納得だ。なぜなら彼は、音楽に関しては天才だ。譜面通りに演奏しろと言われれば、どんな楽器でも難なくこなしてみせる。1番得意な楽器はピアノで、幼い頃に数々のジュニアコンクールで金賞を取りまくっていたのだ。
ただ、1番得意なピアノは現在お休み中で、演奏している姿はここ2年ほど見ていない。部屋にある電子ピアノには埃が被らないように布が掛けてある状態。触った形跡は皆無だ。
「ギターの他にもやるんですか?」
「うーん、他はベースとキーボードを頼まれているけど……キーボードはピアノと違うから、出来るかなあ。ピアノも最近触ってないし……」
「ピアノ……嫌では無いのですか?」
「えっ、何で?」
晴太郎はきょとんとした顔で七海を見上げた。ピアノを弾く姿は見なくなってしまったが、特に嫌になったというわけでは無い様子だ。七海はてっきり嫌になってしまったのかと思っていた。
「嫌じゃないよ。ちょっと休みたかっただけ……」
音楽家は繊細なのだ。ぱたり、と急にピアノを弾かなくなってしまった晴太郎には、何か思うことがあったのだろう。七海は音楽に詳しくないのでよく分からない。
音楽に詳しくない七海でも、晴太郎のピアノが特に素晴らしいという事は分かる。彼のピアノは綺麗で繊細で、でも力強く、聴いている人たちの心を温かくする。
「で、七海」
「はい?」
「何か用があったんじゃないのか?」
そうだった、七海は別に楽器のことを話に部屋に来たのではない。
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