67 / 170

13.嘘2

「……七海、少し話がある」 「私に、ですか?」  何か晴太郎の前では話し難い事だろうか。風太郎から何の話をされるか全く心当たりが無い。風太郎も話を振ったは良いが、言いづらいことなのか、なかなか口を開こうとしない。 「その……うーん……僕の思い違いなら良いんだけど……晴太郎と七海、仲良すぎない?」 「はい? 良いと思いますが……」 「いや、そうじゃなくて……ごめん、聞き方が悪かった」  風太郎の意図が全く読み取れず、七海は首を傾げた。これでは伝わらないと思った風太郎は何か意を決したような顔付きで、もう一度口を開いた。 「七海は、晴太郎の何?」 「私は、晴太郎様のお世話係です」 「本当に……本当にそれだけ? それ以上の、何か特別な気持ちは無いの?」  その風太郎の問いに、七海は返事が出来なかった。ただのお世話係だ、それ以上の感情も気持ちも無いと、断言できなかったのだ。 「否定しないって事は……そういう事なの?」 「……いいえ、風太郎様が思っているような関係はありませんよ。ご心配無く」 「いや、心配なんて……僕は弟が幸せなら、何でも良いと思ってるから」  風太郎は七海の気持ちも、晴太郎の気持ちも、全て見透しているようだ。七海自身もまだ結論が出ない自分の胸の内を覗かれている気がして、少し恐ろしく感じる。  主人と従者という関係性。その本来の道から外れていると分かっていても何も咎めない風太郎は、本当に弟想いの良い兄だ。 「父さんは分からないけど、僕や姉さんは大丈夫。きっと双子たちも何も思わない。でも……兄さんは違う」 「幸太郎様ですか?」 「うん……だから、気を付けて」 「それは、どういう……」  どういう意味だと問おうとした時、ガチャリと勢いよくドアが開く。晴太郎が帰ってきたのだ。 「七海、兄さん、水買ってきたぞ……あれ、どうかした? 何か話してたのか?」 「ううん、何でも無いよ。じゃあ、僕はもう行くから。また朝食の時に」 「うん、また後で」  晴太郎が戻って来ると、風太郎はさっさと部屋から出て行ってしまった。色々と聞きたいことはあったが、兄として幸太郎を慕う晴太郎の前でこの話は駄目だと思い、七海は何も言わなかった。 「七海、ほら。これで薬飲んで」 「……あ、はい。ありがとうございます」  風太郎の話のせいで忘れていたが、晴太郎は七海のためにお使いに行っていたのだ。ペットボトルを受け取り、頭痛薬を飲む。朝起きた時より大分和らいでいたが、せっかく貰ったので一応飲んでおくことにする。

ともだちにシェアしよう!