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17.行かないで2

 受験前の不安は、きっと誰にも拭うことはできない。自身で解決しなければならないこと。近くに居るのに何も助けてあげられないこと、安心させてやれないことが心苦しい。傍にいるのに役に立てないなんて、従者でいる意味がない。 「……なんか、ちょっと落ち着かなくてさ」 「何か、悩み事でも?」 「悩みっていうわけじゃないけど……俺が寝てる間に、みんな勉強してたらどうしよって思ったら……目、冴えちゃったんだ」 「大丈夫ですよ、寝ない人間なんていませんから。受験生は、睡眠も大切です」 「うん……そうだよな」  不安そうに俯く彼の顔を見ると、目の下にうっすらと隈が出来ていた。ちゃんと眠れていないのだろうか。疲れも溜まっているだろうし、身体を壊したりしないだろうか。 「よく眠れるように、ホットミルクでも淹れましょうか?」  昔から夜眠れない時、晴太郎はよくホットミルクを飲んでいた。身体が温まって入眠に良いとも言われている。今の七海が彼に出来るのはそれくらいだ。早速準備しようとソファから腰をあげたが、それを阻止するように、晴太郎が七海の服の裾を引っ張った。 「いい、いらない」 「そう、ですか……」 「いらないから……ここに居て」  懇願するような晴太郎の瞳に、七海は息を呑む。大人しくソファに腰を下ろすと、隣に座る晴太郎がこてん、と身体を預けるように七海に寄りかかった。身体の横に置いた七海の手に、するりと彼の手が重ねられた。 「せ、いたろう様?」  まるで恋人同士がするような行動。七海は驚いて肩を揺らした。彼の名前を呼んだ声は、少し裏返ってしまった。 「ごめん。少しだけ、少しでいいから……こうさせて」  触れ合った肩から、手から、彼の体温を感じる。愛しい人の体温というのは、どうしてこんなにも心が落ち着くのか。本当は肩に手を回してもっと抱き寄せたい。もっと触れたい。 「……ん、もう平気。ありがとう」  くっ付いていたのはほんの短い間だけ。ほんの少しだけなのに、晴太郎は満足した様子で立ち上がった。彼の顔は先ほどよりすっきりしたように見える。 「おやすみ、七海」 「はい、おやすみなさい」    晴太郎はさっさとリビングを出て行ってしまった。  さっきまで触れていた肩は、まだ温かい。もっとあのままで居たいと思ったのは、七海だけだったのだろうか。気丈に振る舞う晴太郎の姿に、少しだけ寂しさを感じた。

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