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19.会いたかった4
「でも、七海さんはその人のこと諦めたわけじゃないっすよね?」
「はい?」
「まだ好きなら、会いに行っちゃえばいいじゃないですか。家族に隠れて会うなんて、簡単に出来ますし」
彼の言う通りだ。晴太郎の居場所も知っているし、連絡先も知っている。会いに行こうと思えば会えことができる。が、七海は何も行動しようとしなかった。
「それは、出来ませんよ」
「何でです? 相手の人も七海さんに会いたがってるだろうし」
「……そうとは限りませんから」
「えー。そんなの、会ってみないと分かんないじゃないですかー」
七海の話に興味を持ったのか、はたまた仕事から逃げたかったのか。山田が手を止めて、七海の方に向き直った。
「あ、もしかして……七海さん、その人に会うの怖がってますよね?」
「えっ?」
「相手の人が、もう自分のこと好きじゃなかったらどうしよう、とか考えてます?」
「それ、は……」
図星だった。山田は軽い気持ちで話しているはずなのに、どんどん七海の気持ちを言い当ててくる。
あんなに長い間一緒にいたのに、さよならも何も言わずに出て行ってしまったのだ。もう嫌われているかもしれない。
もし会って、本当に嫌われていたら、七海は立ち直ることが出来ない。それが怖くて、行動することが出来なかった。
「その人も、ちゃんと七海さんのこと好きだったんですよね?」
「……はい。そうだと思います」
「なら、大丈夫ですよ」
なぜ、と視線を投げると、山田は自信ありげに答えた。
「好きな人を好きじゃなくなるのって、めっちゃ難しいんですよ。だから、その人も七海さんのこと忘れられなくて、悩んでるはずです」
——いっそのこと、嫌いになれたら楽なのに。何度も何度もそう思ったのに、嫌いになんてなれなかった。
きっと、それは七海だけではない。
彼の言葉に少しだけ救われた気がした。彼のポジティブな思考は、見習わなければならない。
「……ってか、偉そうに何言ってんだって感じですよね? すみません、仕事手伝って貰っているのに」
「いえ……」
「仕事、さっさと片付けちゃいましょう」
言い過ぎたと反省した様子の彼は、それっきり話さなくなってしまった。
二人きりのフロアに、カタカタとタイピング音だけが響く。
晴太郎に会いたいという気持ちと、中条家に逆らってはいけないという気持ち。相反する気持ちがぐるぐると七海の心を駆け回り、どちらが正しいのか、どうしたいのか分からなくなってしまう。
そんな気持ちでは片付く仕事も片付かなくなってしまう。全て終わった時には、22時を過ぎていた。
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