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20.隣にいること1

 カーテンの隙間から入る光で、目を覚ます。    いつもと同じように自室で起きたのに、今日はいつもの朝とは違う。  隣で大事な人が眠っている。  狭いシングルベッドの上で、ぎゅうぎゅうと身を寄せ合うように眠った昨日の夜。狭くて寝づらいはずなのに、腕の中にある体温のおかげで、いつもよりぐっすり眠ることが出来た。  自分の腕の中で、すうすうと気持ち良さそうに寝息をたてる愛しい人。朝一番に目に入るのが彼の顔だなんて、こんな贅沢していて大丈夫だろうかと心配になってしまう。  本当はこのまま、彼の寝顔を眺めながら二度寝をしたい。しかし、そういうわけにはいかない。  今までずっと、ひとりで堕落した生活を送っていたせいで、部屋がとんでもないことになっている。昨日は急だったので仕方がないが、大事な人を泊めてもいい状態ではない。  洗濯物が床に散乱していて、テーブルの上は物だらけ。シンクには弁当やカップ麺の容器が置きっぱなし。テーブルの上に置いた灰皿は、片付けていない吸殻でいっぱいで灰が溢れてしまいそうだ。  だから、掃除をしよう。七海は昨夜からそう決めていた。    さっそく片付けから始めよう。晴太郎を起こさないように、そっとベッドから抜ける。  床に散らばった洗濯物たちを拾い、洗濯機の中に押し込む。テーブルの上に並んだ空のペットボトルや郵便受けから取ったまま放置していたチラシ類、シンクに置きっ放しの食べ物のゴミ、目につくゴミというゴミをどんどんゴミ袋へ入れる。使ったまま放置していたコップがテーブルの上に置きっぱなしだったので、ちゃんと洗って棚にしまった。  いっぱいになった灰皿も片付けた。ずっと窓を開けずにタバコを吸っていたせいで、どこからとなくタバコの臭いがする。空気を入れ替えたい。ガラガラと窓を全開にした。びゅう、と冬の冷たい風が部屋に入ってきて、部屋の空気を一掃してくれる。それだけでは足りなくて、洋服用の消臭剤をカーテンやラグに大量に吹きかけた。 「んうー、さっむ……えっ、窓、開けてるのか?」  眠っていた晴太郎が目を覚ました。さすがに騒がしくしすぎただろうか。昼も近くなってきて、そろそろ起こそうかと迷っていたところなのでちょうど良い。  一度起き上がったが、寒かったのか、彼はまた布団の中に潜り込んでしまう。   「おはようございます、晴太郎様」 「おはよー、寒い寒い……窓閉めて、暖房付けてくれ……」  口ではおはようと言っているが、くるくると器用に身体に布団を巻き付けるその様子から、起きようとする気が全く感じられない。  ——この感じ、懐かしいな。  以前、一緒に暮らしていたとき、こうやって休日だからとずっと寝こける彼を、叩き起こしたことは何度あっただろうか。 「もう昼になりますよ、起きましょう!」 「うわああっ、さ、寒いって! 布団返せ!」  嫌がる晴太郎から、無理やり布団を剥ぎ取った。身を小さくして丸くなる仕草は、彼が幼い頃から変わっていない。  こんな当たり前のやりとりが出来なくなるなんて、当時は思いもしなかった。出来なくなってしまった今、こうして彼と一緒に過ごす他愛のない時間が、全部愛おしくて、とても幸せだ。

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