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20.隣にいること3
「晴太郎様!」
七海は慌てて晴太郎の元に戻る。
「ど、どうしたんだ、七海?!」
慌しく戻ってきた七海に、晴太郎は驚きでビクリと肩を跳ねさせた。
「た、誕生日! おめでとうございます!」
七海の勢いのある祝いの言葉に、晴太郎は圧倒されてぽかんとしていた。誕生日を祝われているのだと気付くと、くすりと笑った。
「なんだ、そんなことか。ありがとな」
小さく笑う彼の頬が、ほんのりと赤く染まっている。照れくさいのか、それとも喜んでくれているのか。そんな反応を見て、胸がキュッとなった。
全身で喜んでいた今までの誕生日とは違う。彼の控えめな喜び方に、大人になったなあと成長を感じた。
「誕生日なのに、何も用意できてなくて……すみません」
「いや、いいよ。急に来たのは俺の方だし……」
「でも、何もしないわけには……あ、そうだ。これから買い物行きますか? 何か欲しいものがあったら、買いますよ」
「欲しいもの、か……」
そう呟くと晴太郎は黙り込んでしまった。何が欲しい考えてくれているようだ。
幼い頃から何でもポンポンと与えられていた晴太郎に、改めてこの質問は難しいのかもしれない。思い返してみると、プレゼントは何を贈っても喜んでくれていたが、彼の口から物が欲しいというのは聞いたことがなかった。
しばらく考え込んでいた晴太郎が、あ、と声を上げた。何か思い付いたのだろうか。
「欲しいもの、何かありましたか?」
「うん。でも、買い物とかはいいや」
「……はい?」
「俺、七海の返事が欲しい」
何の、と聞こうとしてやめた。
真剣な眼差しで見つめてくる晴太郎を見て、その返事が何を指しているのか、思い出したからだ。
——大人って……それいつだよ?
——…………ハタチになったら。
二年前のクリスマス。確かに自分はそう言った。
そして今日、晴太郎は二十歳の誕生日を迎えた。
「……覚えてる?」
晴太郎の問いに七海が頷くと、彼はほっと息を吐いた。
「俺、七海のこと好きな気持ち、変わってないよ」
顔立ちは大人になったが、真っ直ぐに好きだと訴えてくる瞳は、昔と変わらない。きらきらしていて、とても綺麗で。じっと見ていると吸い込まれそうになってしまう。
「昨日も言ったけど……七海が、好きだ」
遠く離れても、晴太郎は七海のことを想っていてくれた。大学生になって、新しい出会いはたくさんあったはずだ。それでも、ずっと好きでいてくれた。
「なあ、七海の気持ち、教えてくれよ」
七海も、晴太郎と離れて気付いたことがある。
晴太郎がいないと、駄目になるということ。そして——彼がそばにいないと息ができないほど、彼のことが好きで好きでたまらないということに。
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