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20.隣にいること4
「私も、晴太郎様が好きです。あなたを……愛しています」
ああ、やっと——やっと言えた。
ずっと心に留めていた気持ちは、一度溢れてしまうと止まらない。まるでダムが崩壊したかのように、次々と愛しい気持ちが溢れてくる。
「あなたに助けられてから、私のすべてはあなたのものです。けれど……今度は、晴太郎様を、私のものにしたい」
ずっと従者として尽くすつもりだったのに、いつの間にか好きになってしまった。彼を愛してしまった。年齢や立場の違い、そして世間の目が、七海が晴太郎を好きになってはいけないと、ふたりのことを引き離した。
けれども、それは間違っていた。全く意味を成さなかった。
遠く離れていても、互いを想い合っていた。傍にいなくても、ふたりは硬い絆で結ばれていたのだ。
「あなた自身も、顔も、声も……この指が奏でる、あなたの音も。全部、ぜんぶ、愛しています」
晴太郎の右手を取って、指先に触れるだけのキスをした。
彼の音を奏でる、大事な大事な手。七海の節くれ立った指とは違い、すらっと長くて細い指。自分と同じ男性のものとは思えないほと華奢で、傷ひとつない綺麗なこの手が、誰をもを惹き込む激しい音を奏でるなんて、とても信じられない。
「なっ、な、七海……」
名前を呼ばれてはっとした。顔を上げると、晴太郎が煙が出そうなほど顔を真っ赤に染めていた。
「おま、え……よく、そんな……!」
「……はい?」
「う、嬉しいけど……さすがに、照れる」
「えっ…………す、すみません!」
耳まで赤く染めた晴太郎が、ふいとそっぽを向いてしまう。
今、自分は何て言った? そんなに照れさせてしまうようなことを言ってしまっただろうか? するすると胸の内から出てくる気持ちをそのまま伝えてしまっていたので、恥ずかしいかどうか何て考える余裕がなかった。
が、冷静になって思い返してみると、恥ずかしいことを言ったかもしれない。そう思ってしまうと、じわじわと甘い羞恥が背筋を駆け上がる。
——私のものにしたい、なんて……我ながらよく言えたな。
這い上がってきた甘い痺れが、頬に集まって体温を上げた。
「え、えっと……食器! もう食べ終わってるなら、食器片付けてしまいますね!」
「えっ、あ、うん! 俺も、手伝うよ!」
「い、いいえ、大丈夫です! ゆっくりなさっていてください!」
居た堪れなくなって、食器を持ってキッチンへ逃げた。年甲斐もなく、熱くて気障なことを言ってしまったと、だんだん恥ずかしくなってきた。いったんひとりになって落ち着く時間が必要だ。
ジャージャーと水音を立てて食器を洗う。意味はないかもしれないが、少しでも火照りを治めようとあえて冷水で洗った。
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