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20.隣にいること5

 片付けの途中で、ちらりと晴太郎の様子を伺うと、彼は七海のベッドの上で寝転がりながらスマートフォンを見ていた。落ち着かないのか、ごろごろしたり、足をバタバタと動かしたりしている。  自分のベッドの上で寛ぐ恋人の姿というのは、ぐっと胸にくるものがある。しかも、今彼が身につけているのは、明らかにサイズの合わない自分の部屋着。別に何かしているわけではないのにドキドキして、目が離せない。  やっと彼と想いが通じあって浮かれているのかもしれない。気を抜くと、頬が緩んでしまいそうになる。    食事の片付けを終え、インスタントコーヒーが入ったマグカップをふたつ持って部屋に戻る。 「コーヒー淹れましたが、飲みますか?」 「うん、ありがとう」  テーブルに置いて、晴太郎が寝転がっているベッドに背を預けるように床に腰を下ろす。すると、寝転がっていた晴太郎が身を起こし、ベッドの上から降りてきた。  七海の隣に腰を下ろし、ぴたりと肩と肩をくっつける。まるで甘えるような仕草に、どうした、と七海は晴太郎の方を見た。 「……こ、恋人なんだから、これくらい、いいだろ」  少し照れ臭そうに言う彼に、ぎゅうっと心臓が鷲掴みにされた。  ——可愛い、可愛すぎる。  恋人というのは、こんなにも七海の心を掻き乱すような存在だっただろうか。すぐにでも彼に腕をまわし、ぎゅっと抱きしめたい。しかしそんな余裕のない男だと思われたくないので、ここはぐっと我慢する。  落ち着け、落ち着けと自分自身に言い聞かせ、ぐびっとコーヒーをひとくち。彼の行動のひとつひとつに心を打たれていたら、七海の心臓が保たない。  晴太郎はというと、ぴったりと七海にくっ付いたまま黙り込んでしまった。きっと、恋人になった七海との距離感を図りあぐねているのだろう。しんとしたぎこちない空気をどうにかしたくて、何か話を、と七海は考える。 「大学生活は、順調ですか?」  他愛のない話、と考えて一番最初に浮かんだのがこれだった。実際、七海が一番気になっていることだった。ちゃんと学校に行っているか、新しい友達は出来たのか。まるで親が子を気にするようだが、七海は晴太郎の普段の生活が気になって仕方がない。   「えっ、大学? まあまあ順調だよ。ちゃんと学校行ってるし、友達もいるし」 「そうですか。楽しいですか?」 「うん、音楽の勉強は楽しいよ。七海は? 仕事とか普段の生活とか、どうなんだ?」 「私ですか?」  晴太郎に問われ、七海は考える。会社と家の往復ばかりで充実していない生活を送っていたので、正直話せるようなことがない。  黙ってしまった七海に、何かを察した晴太郎がむっと唇を尖らせた。

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